第16章 織物のように(三成)
織物小屋に着くと、規模は小さいものの、
丁寧に織り上げられた反物が重ねられていた。
中からは小気味良い機織の音が聞こえている。
『さぁ、到着致しました。
今はまだ職人を数名しか呼び寄せておりませんが、
もっと売れるようになれば、地元からまた連れてこれましょう』
「わぁ!素敵な反物が沢山ありますね!
これをこの人数で?すごいです!」
愛はキラキラと目を輝かせながら、丁寧に織られていく生地を眺めていた。
(愛様は本当に裁縫がお好きなのですね)
三成も、愛が楽しそうなのを見ると、
つい自分の事のように心が踊った。
『この生地の繊細な模様も、お一人で仕上げられるのですか?』
三成の手には複雑に色々な色が絡み合い、見事な柄を作っている反物が乗せられている。
『そうです。これは仕上げまでに一月以上かかる大変な作業ですが…
あ、小夜、こちらへ来てくれないか』
主人が声をかけると、機織の手を止めて、人の良さそうな婦人が近寄って来た。
『これは、小夜と言って、私の妻です。
長年、この織物の職人を勤めております』
そう言うと、小夜と呼ばれた女性は深々と頭を下げて、
三成と愛に挨拶をした。
『ようこそおいで下さいました。狭いところですが、ゆっくり見て行って下さいね』
穏やかな笑顔の小夜が挨拶をすると、周りの機織職人たちも、
こちらを見て笑顔で会釈をしてくれる。
『こちらが、以前に話していた愛様と、それと秀吉様の家臣の石田三成様だよ』
『主人から、愛様のことは伺っております。
とても良い腕を持った若い姫様だと…あら、この生地は…』
そう言うと、三成の羽織に目を止めて、少し驚いた顔をする。
「小夜さん、初めまして。愛です。
いつも、素敵な反物をありがとうございます。
三成くんのこの羽織も、ご主人のお店で買わせて頂きました」
愛が告げると、小夜はぱっと顔を輝かせる。
『やっぱり!実はこの反物を織ったのは私なんです。
石田様に来ていただけているなんて…。
それに、本当に丁寧なお仕事をして頂いて…』