第16章 織物のように(三成)
そう言いながら、小夜は涙ぐんでいた。
「小夜さん?どうされましたか?」
愛が慌てて声をかける。
『いえ…本当に嬉しいんです。
私は長年この織物のために働いてきましたが、
国が戦で貧しくなっていくと、一時期織物の生産ができなくなりました。
でも今は、信長様のおかげでこうやって安土で流通させる事ができて、
地元も生き返りましたが、こうして安土で主人の近くで働けるようにもなりましたから…』
小夜の言葉に、愛は目の奥が熱くなるのを感じた。
戦がただの悪ではないと、三成が教えてくれなければ、
こうやって今、ここにいる事も無かったかもしれない。
「きっとこれからも、こうやって安土だけではなく、
素敵なものが日本中に溢れていくと思います。
信長様の信念を支える、優秀な参謀がここにいますから!
ね、三成くん!』
そうやって笑いかけると、ニコニコと話を聞いていた三成も口を開く。
『はい。愛様ような人の心に寄り添える優しい人たちが
傷つかぬような日ノ本にするのが私の信念です。
そして、このような素晴らしい技術や、人々が悲しまない世を作るために』
そう言う三成の目には、見た目の優しさだけではない、
力強さが宿っていた。
『石田様のような方が、信長様のお近くにいれば、
こんな心強いことはありませんね。
ところで…三成くんと呼ばれていると言うことは、愛様は石田様の…』
小夜の言葉が全て終わらぬうちに、三成はを愛を引き寄せた。
『はい。私の一番大切な方です。
お二人のように、支え合って末長く添い遂げたいです』
どこか無邪気に言う三成に、愛は目元を染めながら、
「三成くん…」
と、俯いた。
『やっぱり!そうですよね。とってもお似合いですよ!
ね、あなた』
小夜はまるで自分の娘のように愛を優しい目でみつめる。
『石田様と愛様なら、私たちが足元にも及ばないほどの夫婦になりましょう』
反物屋の主人も、同じように目を細める。
『さぁさぁ、折角きて頂いたのですから、存分にご覧になって下さいね!』
そう言うと小夜は丁寧に機織や生地についての説明をはじめるのだった。