第16章 織物のように(三成)
書物問屋を後にして、約束の場所へ向かうと、
すでに反物屋の主人の姿があり、こちらを見て和かに手を振ってくれた。
「お待たせして申し訳ありません。
今日は宜しくお願いします」
丁寧に頭を下げると、三成が続く。
『こんにちは。今日は私も勝手にお供させて頂きました。
あなただったのですね、いつもお世話になっています』
いつか愛を城下に案内した時に紹介した、
反物の行商の主人は、三成を見て少し恐縮したようだった。
『これは、石田様、お久しぶりでございます。
愛様にはご贔屓にして頂いておりまして、
こちらの方がお世話になっている限りです。
石田様を一緒にご案内できるとは、こんな嬉しいことはありません。
さぁ、参りましょう』
そう言うと、主人は和かに
普段は地元で作っている織物を、
最近安土の近くでも作ってみようと言う試みをしていることや、
最近は愛が仕立てた着物を実際に店先にかける事で、
見本ができて更に売れるようになった事などを話してくれた。
『愛様はいつの間にか城下の皆様と馴染んでいたのですね。
私も嬉しいです』
三成は、愛を褒めちぎる主人に自分の事のように嬉しくなった。
『時に、石田様のその羽織は…』
愛が作ったこの羽織も、この反物屋で買ったものだった。
『はい。愛様が仕立てて下さったものです。
生地から察するに、こちらもご主人のお店で見立てた物ではないでしょうか』
『そうでしたか、やはり!
仕立ての腕は安土一ですね、愛様は』
嬉しそうに話す三成と主人の会話を、愛は心地よく聞いていた。
『愛様の仕立てられた着物には、何かこう、
温かみが感じられるのです。きっと、着てくれる人への愛情がこめられているのでしょう。
そんな方に買っていただけるのは、本当に嬉しくて、今から行く機場の者にも
いつも伝えているんですよ。
きっと、お二人に会えることを今か今かと待ち望んでるはずです』