第16章 織物のように(三成)
まだ約束の時間まで少しある頃、二人は城下へ到着した。
「三成くん、何か見たいものある?
まだ時間あるから、寄り道していいよ?」
三成は少し考えると、
『では、少し書物問屋に寄っても宜しいですか?』
と答えた。
「そう言うと思ったよ。じゃあ、私は邪魔しないように露店見てようかな」
笑顔で言った愛に、三成は意外な事を口にする。
『いえ、できれば一緒にいて頂きたいのですが…』
「え?でも、私がいたらゆっくり見れないでしょ?」
『いえ、貴女がいない方が、集中できない気がします。
貴女がそばにいてくださるだけで、安心できるというか…』
その言葉に愛は少しだけ頬をふくらませていじけてみせる。
「もぉ。そんなに心配しなくても、知らない人にはついていかないし、
迷子にもならないよ?」
三成は、それを見て困ったように続けた。
『違うんです愛様。
なんと言うか…貴女が側に居てくれた方が、頭が冴えるというか…。
私はこれから、愛様のような人々が幸せに暮らせる日ノ本を作りたい。
だから、愛様が隣にいてくださった方が、書物を前にしても、
仕事を前にしても、意識が研ぎ澄まされていくのです』
子供のように心配されていると思っていた愛は驚くと同時に、
自分がいるだけで三成の役に立てる事が嬉しかった。
「そっか。それなら一緒にいるね。
もう、鬱陶しいってくらい隣に」
今度は戯けたように笑ってみせる。
『愛様が鬱陶しい?
そんな事はこの先一生訪れません!』
ふざけて言った言葉に、真剣な眼差しで訴える三成を見て、
愛はそっと手を繋ぐ。
「訪れられたら、困ります」
そう小さく呟くと、身体ごと寄り添って歩き出した。