第5章 glass heart【赤葦京治】
「誰が隣に座っていいって言った?ツッキー」
「隣座っていいよね」
「言いきった!?今は一人虚しくラーメン啜りたい気分なの!」
「何それ。とうとう赤葦さんにフラれた?」
「……」
ツッキーにしてみれば、きっといつもの嫌味。
でも…今の私は全くもって笑えない。
「え…何、その間」
私が黙り込んだから、怪訝な顔してこっちを窺ってくる。
フラれては…ない。
「フラれてないもん。…まだ」
「 "まだ" ?」
次に会うなり電話なりする時には、それが現実になってしまうかもしれないけれど…。
並んでラーメン食べながら、ここ数ヵ月の赤葦さんとのことを話した。
テツさんや光太郎さんならともかく、こんな悩みを改めてツッキーに話したのは初めて。
隣から、「うん」とか「ふーん」とか「へえ」とか、温度の低い相槌が返ってくる。
今日の出来事までをひととおり聞き終わったツッキーは、二人分の伝票を持ち立ち上がった。
「混んできたから外で話そ」
「…うん」
夕食時ということもあり、いつの間にか混雑していた店内。
お会計は一旦ツッキーに任せ、暗くなった屋外へ。
夜はすっかり肌寒くなった。
冷えた空気と、空高く煌めく星。
道路脇の街路樹の葉は黄色く染まり、落ち始めている。
もうすぐ、冬がやってくる。
自動ドアが開き、店内から出てきたツッキー。
「ありがとう。私の分払う」
「いいよ、別に」
手にしていたお財布から千円札を取り出そうとするけれど、ツッキーは構わず歩き始めた。
「でも、」
「じゃあ、あったかいお茶奢って」
少し先で足を止め、私の方を振り返りながらすぐそばの自販機を指差す。
お言葉に甘えて、言われるとおり二人分のお茶を買った。
一本を彼に手渡し、お財布をしまおうとした時、気づく。
「あ…」
「どうしたの?」
突然動きを止めた私に、訝しげな声が向けられた。
その声に反応することも出来ず、ただ、固まる。
ハンカチ…
手離しちゃったんだ…。
赤葦さんが私のために選んでくれたもの。
私にとってはお守りで、宝物で…
見るたびに赤葦さんを思い出してた。
まるでとどめを刺されたようだった。
赤葦さんとの繋がりがなくなってしまったみたいで、涙が出そうになる。