第5章 glass heart【赤葦京治】
思いきって口から吐き出した言葉。
それを聞いた二人は、同じように驚いた顔をした。
「そんな…大丈夫ですから…」
「でも、病院に着いても待たされるかもしれないし。その間に余計具合が悪くなったら…?誰かが付き添っていた方がいいんじゃ…」
赤葦さんに視線を送ると、申し訳なさそうな顔をしつつ、小さく頷く。
「俺もそう思う。遥、一緒に行く」
「待って、でも…」
赤葦さんがタクシーに乗り込んでも、まだ遥さんは私を気にしているみたい。
「早く良くなるといいですね。お大事にしてください」
体調の悪い遥さんに、気をつかわせちゃいけない。
無理矢理笑顔を作り、タクシーの車体から一歩下がる。
「ごめん、汐里。ありがとう」
扉が閉まる前。
そう言ってくれた赤葦さんに、言葉もなく首を振った。
何か声にしたら、上擦ってしまいそうで。
走り出したタクシーを目で追うことも出来ず、私はゆっくりと足を踏み出した。
赤葦さんと二人で過ごした時間が蘇る。
遊園地のお化け屋敷で初めて手を握られて、すっごくドキドキしたこと。
それから、メロン味のジェラート。
沢山悩んで選んだ浴衣。
赤葦さんが綺麗って言ってくれただけで、堪らなく嬉しかった。
酔っ払いに絡まれた私を助けに来てくれた時は、心底ホッとしたな。赤葦さんが抱き締めてくれた途端、それまでの恐怖が全部吹き飛んじゃうくらい。
彼の手で食べさせてもらったかき氷は、実は恥ずかしくて味なんてろくにわからなかった。
残暑の中出掛けた、涼やかな水族館。
偶然触れた手に胸が高鳴ったことも、二人きりの観覧車でまた触れて欲しくなってしまったことも。
赤葦さんはきっと気づいていない。
ついさっきまで一緒にいた映画館。
メガネを掛けた姿は、色気があって知的で。
新たな赤葦さんを発見するたび、私の心はどうしようもないくらいに揺さぶられていく。
こんなにあなたを見続けていなければ…
こんなに好きにならなければ…
これ程辛くなることもなかったのかな…。
知りたいけど、知るのが堪らなく怖い。
あなたは今も、遥さんのことが好きなんですか―――?