第5章 glass heart【赤葦京治】
決して忘れていたわけじゃない。
遊園地で月島用の土産を選んでるのを見た時から、俺が思う以上にあの二人は親しいのではないかと感じてた。
ゆっくりお互いを知っていけばいい。
…そう思ったのは、つい数時間前。
けれどそんな自分を撤回したくなるほど、突如焦燥感が湧き上がる。
こんな感覚を抱くのは初めてだ。
コンビニを出て、汐里の家へ向かって歩く。
その間も俺の頭の中は二人のことでいっぱいだった。
月島は素直じゃないだけで、汐里のことを悪く思ってるわけではないはず。
彼女がいるなんて話も聞かないし、もしかして…
いや、考えすぎか…?
でも……
ふと浮かび上がった疑惑を、自分の中で繰り返し考える。
考えたって答えが出ないのはわかってる。
それでも、頭を離れようとしないんだから仕方がない。
「送ってくれてありがとうございました。それに、荷物まで」
「うん、ゆっくり休んで」
辿り着いた家の前。
手にしていたコンビニ袋を汐里に渡した。
「今日、すごく楽しかったです」
そう言いながら向けられる汐里の笑顔を…
俺は、独占したいと思ってしまっている。
「楽しかったよ、俺も」
「じゃあ、おやすみなさい」
「汐里」
玄関のドアへ向かうため踵を返す彼女を、呼び止める。
「はい?」
「また、連絡する」
そう宣言したのは、焦りの現れ。
これっきりにしたくないし、これっきりだとも思われたくはない。
汐里は一瞬驚いた顔を見せるものの、それはまた綻んだ笑みへと変わり、小さく頷いた。
その笑顔が見られただけでも、今は満足だ。
「おやすみ」
最後にそれだけ言って、背を向ける。
駅への道すがら目に留まる、月島のアパート。
まさか、あいつに対してこんな感情を抱くことになるなんて…
そっと目を逸らし、また歩く。
虫の音がやけに耳につく、静かな秋の夜道を。