第5章 glass heart【赤葦京治】
「わ、すごい…!綺麗ですね」
「うん」
水平線に向かって傾く夕日は波間にキラキラとした光の筋を広げていく。
地上から離れる程視界いっぱいに映る、その景色。
瞳の端に眩しい煌めきを感じつつ、汐里の話に耳を傾ける。
あのショーが面白かった、とかイルカやペンギンが可愛かった、と語る声は弾んでいて楽しそうで…。
今日ここに来てよかったと安堵した。
そんな風に一日を振り返りながら話をしていた俺たちだったが、観覧車のてっぺんに近づくにつれ大人しくなる汐里。
どうしたのかと目を向けてみると、外を眺めるでもなく、こちらを見るでもなく、俯き加減で居心地悪そうにしていた。
「どうした?」
「いえ…、あの…」
「ん?」
「そっち、座ってもいいですか…?」
…………。
そっち、とは。
つまり…
俺の隣ってこと、だよな……?
「いい、けど…」
いきなりどうした?
あれ…汐里ってこんな積極的な子だっけ?
ほんの少しの戸惑いを覚えつつ、隣に移動してくる汐里を窺う。
「あそこ…目のやり場がなくて…」
汐里の言う方向、俺たちの先を行くゴンドラを振り返ってみる。
中にいるカップルは何と言うか……激しくお楽しみ中だ。
どうやら汐里の座っていた場所からはその様子が丸見えだったらしい。
「ああ…。でもあれ、むしろ見られてもいいって開き直ってるんだと思うけど」
「え!そうなんですか!?」
たぶん、今日一番というくらい近づいた俺たちの距離。
スカートから覗く白い太ももとか、甘いシャンプーの香りとか、コツンとぶつかった膝とか。
潤ったピンク色の唇…だとか…。
今まで意識しなかったものが、急激に五感を刺激してくる。
恐らく、濃厚なキスを繰り広げるカップルを見てしまったことも一因だとは思うけど…
ヤベ…、なんか妙な気分になってきた…。
すぐそこにある汐里の顔。
俺と目が合うと、恥ずかしそうにまた俯いた。
しおらしいその仕草にすら心を乱される。
とは言え、今の俺たちの距離感で汐里に手を出していいわけがないし、そんなこと出来るわけもない。
ひとまず、静かに大きく息を吸い込んだ。