第5章 glass heart【赤葦京治】
水族館と言えば、お約束のイルカショーにアシカショー。
芸を仕込まれた動物たちに驚きと癒しをもらい、感嘆の声冷めらやぬ彼女とともに次のエリアへ進む。
立ち入ったのは、他より更にライトダウンされた場所。
視界いっぱいの大水槽で魅せる、イワシのトルネード。
示し合わせたように群れを成して泳ぐ様は、一匹ごと銀のウロコが光を反射して、幻想的かつ神秘的。
まるで、現実世界に自分がポツンと置き去りにでもされたような…。
それは確かに魚の群れのはずなのに、銀河や流星群といった類いの、宇宙的な何かなのではないかと錯覚してしまう。
言葉もなく魅入っているうちに、いつの間にか俺たちの距離は近くなっていたらしい。
「……」
隣り合わせの手と手が、触れた。
ピクリと揺れた、汐里の指先。
思わずそこからゆっくりと距離を取る。
今まで、流れや勢いに任せて彼女の手を握ったこともあった。
でも今、それが許される真っ当な理由を思い付かない。
ただ触れたいから触れる、なんて。
汐里にどう思われるだろう。
そんなことを考えてしまうと、手を握る勇気など俺の中には見当たらなかった。
ひととおり館内を巡り、夕暮れの屋外へと出る。
少し風があるものの、まだそれは生温い。
「あ、赤葦さん。あれ乗りたいな」
汐里が指差しているのは、観覧車。
水族館の敷地内には子どもが遊べる屋外遊具とともに、シンボルである大きな観覧車がそびえ建っている。
港に位置する場所ということもあり、この時間は綺麗な夕日が見られそうだ。
「いいよ。行こうか」
皆考えることは同じようで、ゴンドラの中には絶えず人が入っていく。
俺たちも乗り場でチケットを買い、係員の誘導でその中のひとつに乗り込んだ。
「観覧車なんて、久しぶりです」
「この前遊園地では乗らなかったしね」
「そうそう。光太郎さん、"落ちたらどうすんだ!" って怖がってましたもんね」
散々乗り回したジェットコースターは怖くはないのか?
そう尋ねれば、"あれは安全ベルトが着いてる!" なんて妙な持論を引っ張り出してきたのを思い出す。
木兎さんの思考回路は本当に謎だ。