第5章 glass heart【赤葦京治】
「じゃあこれも知ってる?」
目から背びれの方へかけてはオレンジ色。
それ以外はサファイアブルーの熱帯魚。
指を差しつつ汐里を見ると…
「アフリカンフレームバックピグミーエンゼルですね」
すかさず答えが返ってきた。
…何て?
表示されている名前を確認すれば、まさにその長ったらしいカタカナが羅列されている。
「ふはっ、すごいね」
思わず吹いた。
いつも珍回答で笑いを提供してくれる汐里が熱帯魚に詳しいなんて、誰が予想しただろうか。
「子どもの頃父が図鑑買ってくれて、それで。あ、やっぱり私のことバカだと思ってたんでしょう?」
「いや、大丈夫…、ふっ、」
「何が大丈夫なんですか?もぉ、まだ笑ってるし!」
意外過ぎる一面が、妙なツボに入ってしまった。
汐里は俺をジトッと見つつ、唇を突き出している。
「うん、大丈夫。ギャップ萌えってやつだから」
「…え」
「あれ。使い方違った?」
「そ、そういう使い方はダメ!ダメですっ!」
「そうなの?難しいんだね」
赤面する汐里を横目に、俺のスマホでもお目当てのナンヨウハギを撮影する。
綺麗に撮れた一枚を送信してあげると、嬉しそうに顔を綻ばせた。
汐里が笑ってくれると、嬉しくなる。
また笑顔が見たくなる。
以前は無理して笑う君の姿が胸を刺し、目を逸らしていたけれど…
今は、目を奪われる。
明るくて快活で、けれども健気でいじらしくて…。
汐里のことは前から知っていたはずなのに、俺の中で何かが変わっていく。
この感情に名前を付けるのは、まだ早いだろうか。
気持ちの変化を自覚するにつれ、今度は汐里の心が気がかりだ。
花火に誘ってくれたのは汐里。
二人で過ごす時間を楽しんでくれているのも、間違いないと思う。
しかし、かつて感じていた汐里の想い。
それがいつまでも俺に向けられているなんて思考は自惚れもいいところだ。
何かのタイミングで他の男に惹かれるかもしれないし、俺自身にガッカリすることだって有り得る。
こんな臆病な考えが付き纏うようになってしまったのも…
きっと、君のせいだ。