第5章 glass heart【赤葦京治】
汐里をデートに誘い、1ヶ月が経過した。
ちなみにこの間、特に連絡はしていない。
向こうからも音沙汰はない。
出会った頃からの距離感を思えば、まあこんなものかと納得するものの…。
今頃何をしてるのだろうと、幾度か考えてしまっているのも事実。
次に出掛けることになったのは、水族館。
室内で、尚且つ涼やかな場所。
まだ昼間は残暑を実感する時季。
ジリジリと照りつける日射しも蝉の合唱も、日常から離れていくには少々早い。
相変わらず忙しい日々を送りながらも、再び汐里と過ごす時間を心の底で待ちかねている自分がいた。
暦の上では秋なのだが、天気予報で連日伝えられている最高気温は30℃を超している。
迎えたその日も、例に漏れず。
車を出せば快適なのだが、目的地である水族館の周囲は渋滞することが多いため、往復には電車を選択した。
程々に混雑した車両を出て、駅から数分。
冷えた空気と薄暗い館内、天井まである大水槽。
その中で泳ぐ沢山の魚が、俺たちを迎えてくれた。
「わ、すごーい!」
「でかいね」
「はい…」
大小様々な魚が水中を行き来する姿は圧巻だ。
こんなに多種類の魚を間近で見ることはない。
子どもの頃をふと思い出す。
鋭利な刃物のように泳ぐ鮫や、不思議な姿かたちをしたエイを見て、随分興奮したっけ。
今だって、まるで自分が海の中にいるような錯覚に陥ってしまう。
しばらくそれを眺めたあと、そばにある熱帯魚の水槽へ移る。
色鮮やかなそれは、汐里の心を捕らえたようだ。
「あれ?何か上手く撮れないなぁ…」
相手は生き物だから静止して待ってはくれない。
何度かシャッター音を鳴らすものの、満足のいく写真は難しい様子。
「どれ撮りたいの?」
「ナンヨウハギです」
「え、ナンヨウハギって名前知ってたんだ」
青くて尾びれが黄色い熱帯魚。
よく見る魚だし、某アニメ映画のキャラクターにもされていたから誰しも見たことはありそうだけど…。
汐里の口からその名前が出てきたのには驚きだ。
「あ、バカにしましたね?私、熱帯魚は詳しいんですから」
「そうなの?」
「はい。そっちはツノダシ、セジロクマノミ、アケボノチョウチョウウオ」
水槽の下にある名前と照らし合わせてみると…
本当だ、合ってる。