第5章 glass heart【赤葦京治】
店じまいしようとしている店主から買った、二人分のりんご飴。かき氷も同じく。
俺はレモンで、汐里はイチゴ味。
それを手にしつつ、帰り行く人の波から離れた川岸までやってきた。
土手は雑踏で落ち着かないし、その点ここは静かでいい。
並んで腰を下ろし、早速かき氷に手をつける。
元々の気温と走り回ったのが重なって、喉はカラカラだ。
「赤葦さん、レモン好きなんですか?」
「うん、さっぱりするし。苦手?」
「いえ。酸っぱいのも好きですよ」
それなら…と、ひとさじ掬ってその口元に差し出してみる。
「食べる?」
「え…」
汐里の視線は俺の顔と差し出されたかき氷を交互に行き来した。
「えっ…と…」
明らかに戸惑ってる。
困らせたいわけじゃないんだけど…
まあ、ぶっちゃけ確信犯。
この子がどんな顔を見せてくれるのか、知りたくなってしまったんだからしょうがない。
「イ…タダキマス…」
「どうぞ」
汐里は上目使いでこちらを見たあと、差し出したままの氷を口に入れる。
キュッと唇を閉じて小さく喉を鳴らすと、また様子を伺うみたいに俺を見上げてきた。
「美味しいですね…非常に…」
「そうですか」
何故かかしこまる口調に含み笑いしつつ、もうひとさじ氷を掬い、唇へ。
今度は黙って口を開き、またそれをコクンと飲み込んだ。
「あの…何で私、食べさせてもらってるんでしょう?」
「知りたい?」
「はい…」
「餌付けみたいで楽しいから」
「え!もう、からかわないでくださいよぉ!」
口を尖らせて拗ねている顔は、何だか幼くてとても可愛い。
いつもの汐里でよかった。
からかってみたのは認める。
けれど怖い思いをさせてしまった分、今だけはできるだけ沢山笑って欲しいから。
「ごめんごめん。はい、好きなだけ食べていいよ」
「じゃあ…赤葦さんも好きなだけどうぞ?」
お互いのかき氷を交換し、次々それを口に運んでいく。
口内で溶けていく冷たいイチゴは、レモンの後だととても甘く感じた。