第5章 glass heart【赤葦京治】
汐里の腕を掴み強引に高架下の死角へ連れ込もうとしているのは、若い男だ。
見るからにガラは悪く、何やら話しているがその呂律は回っていない。
「汐里!!」
「…っ、!?…あ、赤葦さん…!」
俺に気づいた汐里が男の手を振りほどこうとするが、ビクともしない。
すかさずそこに割って入り、酔った男を汐里から引き剥がした。
「何やってんだ、アンタ!」
「何って…可愛い子とちょーっとお話したかっただけだよぉ?なんも変なことしてないって~!」
「う、嘘…っ!今、胸…、触った!!」
「は…?最っ低だな。警察呼ぶよ?」
軽蔑の眼差しで見下ろしつつ、男の胸ぐらを掴む。
もちろんこっちに分が悪くなると困るから、暴力なんて振るう気はない。
ただ、痴漢したあげくこんなところに汐里を連れ込もうとしたんだ。
このくらいの脅し、アリだろ。
「胸くらいなんだよ!?…いやいや!触ってるとこ見てねーだろ!?言いがかりだ!」
「ああ、そう。じゃあ嫌がるこの子追い回してたのは誰?下手したらこれ誘拐だよね。これだけ人のいる花火会場なら、あんたの顔誰にも見られてないなんてことないと思うけど。他から証言あったら即捕まるよ」
絶対零度で目の前の男を追い詰める。
酔っ払いの頭でどこまで理解できてるかなんてわからないけど、取りあえず "警察" 、"誘拐" 、"捕まる" のワードがあれば、こいつには十分だったようた。
「ああ…っ、ちくしょうっ!!」
俺の腕を振り払うと、そいつは捨て台詞のような言葉を吐いて一目散に逃げていった。
本当は警察に突き出したい気持ちもあったけれど、とにかく今心配なのは…
「…汐里」
呆然と立ち尽くしたままの汐里。
その顔を覗き込む。
「怪我…してない?」
「……大丈夫、です…」
小さくそれだけ呟く。
ゆっくり顔が上げられ、俺と視線が交わった途端。
暗がりに浮かぶ大きな瞳に、じわりと涙が浮かんだ。
胸に突き刺す、後悔と罪悪感―――。
「汐里…、ごめん、怖い思いさせて…」
宥めるように、安心させるように。
そっと背中へ手を回し、自分の胸元へ汐里を引き寄せた。