第5章 glass heart【赤葦京治】
「嫌だって。興味ない、時間の無駄。見た目で気に入られても嬉しくないよ。馬鹿馬鹿しい」
「なっ…そこまで言わなくてもいいでしょ!?ほんっとツッキーって冷たい!こんな冷血人間やめといた方がいいって、先輩に言っとく!」
「ドーゾご勝手に。僕は痛くも痒くもないし」
これ以上汐里と顔を合わせていたくなくて、立ち上がる。
移動する先は、テーブル席から離れたカウンター。
厨房の隣に位置するその席まで足早に進み、苛立ちに任せてそこにいた二人の会話を割った。
「梨央さん」
梨央さんと黒尾さんが同時に振り返る。
「何…?どうしたの?」
「ほんと汐里腹立つから。ここで飲んでいいですか?」
返事を聞くより前に、革製のその椅子にさっさと腰を下ろす。
手にしていたグラスを煽ってみるものの、強めにしたはずのアルコールにはまるで酔えそうもない。
思わず、今の僕からしたらまるで猛獣使いのような先輩に目をやった。
「黒尾さん。あのじゃじゃ馬、どうしたら手なずけられるんですか?」
「もう少し優しくすればいんじゃね?」
「嫌です」
それができたら苦労はしない。
いや。できたとしても、あんな無神経な女に優しくなんてしたくない。
人の気も知らず…って、僕の心中なんてわかるはずないから、汐里に対するこんな感情は筋違いかもしれないけど…。
とにかく、このムシャクシャした感情のやり場がない。
「お姫様のご機嫌とってくるわ。梨央ちゃん、次の火曜空けとけよ?ちょっと話したいこともあるから」
梨央さんをサラッとデートに誘いつつ、じゃじゃ馬無神経女のところへ行ってしまった黒尾さん。
「はぁ…」
残された梨央さんは、ため息とともに浮かない顔をしている。
「何て顔してるんですか?」
「……悪かったわね、こんな顔で」
「デートに誘われてため息って。ワケわかりません」
「だって…。てっちゃん、汐里ちゃんと付き合ってるんでしょ?二人で会うなんて悪いもの」
「ハァ?」
何がどうしたらそう見えるのか、謎過ぎる。
汐里が好きなのは、赤葦さんですよ―――。
教えてあげればいいのに、それを口にするのもはっきり言ってしんどい。