第5章 glass heart【赤葦京治】
*月島side*
休日出勤をした、その帰り道だった。
あまり会いたくない彼女の姿を見つけたのは。
"会いたくない" と言う感情を確かに胸に抱えていたはずなのに、それでも視界に入ってしまえば目を逸らせなくなる。
同じ車両の中、扉横のスペースに収まっている小さな体。
何を見ているわけでもなさそうだけど、ぼんやりと窓の向こうを眺めている。
普段はガチャガチャ喧しい汐里だけど、こうして見てみるとやっぱり綺麗な顔立ちをしていると思う。
現に今だって適当に視線をさ迷わせていただけだというのに、ふと目に留まってしまったのだ。
数秒の間を置いて汐里だと理解し、勝手に速くなっていく自分の心臓が恨めしくなった。
ほんと、喋んなきゃまともに見えるのに…。
せめてもの悪態を心の中で吐いて、僕はその姿にくるりと背を向けた。
汐里との距離は、車両の端と端くらい離れている。
こちらに目を寄越さないように祈りながら、せめてもの足掻きに最寄り駅まで猫背を保ち続けた。
「あ、ツッキー!」
電車が到着するや否や、汐里に見つかる前にとホームへ降りたはずなのに、後ろから大きな声で呼び止められてしまった。
「頭飛び抜けてるからすぐわかったよ~」
呑気に近づいてくる汐里をゆっくりと見下ろす。
ほんと、この無駄に平均より伸びてしまった身長が今は憎い。
「ツッキー仕事帰り?」
「うん…。何、買い物でもしてきたの?」
何か妙に大きなデパートの袋を肩に引っ掛けている汐里。
ジッと目線を送っていると、照れくさそうな笑みとともに、こう返ってきた。
「浴衣買ったの。…赤葦さんとね、花火行くことになったから」
「……」
ああ…
そういうこと…、ね……
「……良かったね」
「え?意外」
「何が?」
「そんな風に言ってくれるの」
「そう?」
嫌味もからかうのも煽るのも面倒くさい。
ただ流すのが賢明だ。
二人で改札に向かいながらそう結論づけるものの、汐里は僕に返答のいる質問を投げ掛けてくる。