第5章 glass heart【赤葦京治】
「あぁ、もう迷っちゃう。どうしよう…。テツさん、どれがいいかなぁ?」
「俺三着まで絞ったろ。あとは自分で決めろよ」
「酷い!付き合ってくれる約束は?」
「あーもう、わーったよ。じゃあ、そっちの赤い方」
「こっち…?うーん…」
「ほら見ろ。結局自分の好きなのを選ぶんだろ?」
呆れたような声のテツさん。
実はこれがいいかも?っていうのが私の中では、ある。
でも普段着ない色だから、似合っている自信がない。
「あのね、テツさん。これ変?」
指差したのは、少し落ち着いた水色。
店員さんが言うには、和名で瓶覗(かめのぞき)と呼ぶらしい。
大人びた色味のその布地には、大きな白い朝顔の柄が染められている。
「全然変じゃねーよ。いつもの汐里とは印象違うけど、でも似合ってる。いいんじゃね?」
「本当に?」
物事をハッキリ言うテツさんだからこそ、こんな風に褒めてもらえると自信が持てる。
こうなれば、もう他の浴衣は目に入らなくなってしまった。
赤葦さんに少しでもいいから、"似合う" って思ってもらえたらいいな…。
「それにしても、汐里がデートまで漕ぎ着けたか。感慨深いねぇ」
デパートからの帰り道。
定食屋さんでサンマ定食をつつくテツさんが、しみじみそう言う。
ちなみにこれは今日付き合ってくれたお礼で、私の奢り。
もっと言えば、お礼なのだからとわざわざお洒落なカフェを提案した私の意見は却下され、テツさんの希望でここに落ち着いた。
お洒落カフェの食事は総じて量が少なめだから、私としてはこちらの選択肢の方がありがたい。
そして、聞き捨てならない今のテツさんの台詞。