第5章 glass heart【赤葦京治】
ここは、デパートの特設会場。女性用の浴衣売り場。
今、私の目の前にはテツさん。
「この前ゆっくり話聞いてやれなかったから」と、連絡をくれたテツさんに事の経緯を説明したところ、赤葦さんとの展開に大層驚きながらも喜んでくれた。
浴衣を新調するのに赤葦さんの好みが知りたい!と頼み込み、今日こうして買い物に付き合ってもらっている。
「あいつの好みっつってもさ、俺もよく知らないよ?大体赤葦みたいなのは、"似合ってれば何でも素敵だよ、ハニー" とか言うタイプだろ」
「赤葦さん絶対ハニーとか言わない」
私を茶化してるのか、赤葦さんを茶化してるのか。
まあどっちもかもしれないけど、そんな風にふざけたことを言いつつ浴衣を物色してくれている。
「赤葦っつったら、やっぱ落ち着いた感じがいいんじゃね?で、汐里に似合ってるのっていうと…」
選んでくれたのは三着。
どれも大人っぽくて品がある。
「へぇ、テツさんセンスいい!」
「だろ?お前も選んだ?」
「はい。これと、これ」
「あん?何か地味じゃね?赤葦意識し過ぎんなよ。汐里に似合う浴衣ってのが前提だろ」
「えー。自分じゃどれが似合うのか本当にわからない!」
「じゃあ、好きな柄とか色はどんなん?」
「えーっとね…」
口では軽いこと言いながらも、私が選ぶ浴衣に目を落としながら的確なアドバイスをくれる。
あれこれ意見を交えた末、目の前には五着の浴衣が並ぶ。
「あとは試着して決めろよ。見ると着るじゃ印象違うからな」
「そうですね。じゃあ早速!」
店員さんにお願いして、それぞれを試着させてもらう。
でもいざ着てみると、一番下の候補だったものが意外にもしっくりきたりして。
ますます悩んでしまう。
率直な意見をテツさんに求めながら悩むものの、やっぱり決断は難しい。