第5章 glass heart【赤葦京治】
「今日…っていうか、ついさっき聞いたんです。テツさんに。だから、軽くパニック…」
「パニック?何で?チャンスが巡ってきたんじゃねーか!やるしかねーだろ!?」
いかにも光太郎さんらしい、ポジティブな思考だ。
何とも不思議そうな顔をしている。
でも生憎私は、そんな考えを持ち合わせてはいなくて…。
「そうは言っても、赤葦さん今恋愛とかそんな気あるのかな…。私がウロチョロしたってウザいだけかもしれないし…」
むしろ、ネガティブな思考ばかりが付きまとって仕方がない。
私のボヤキを聞いていた光太郎さんは、いつになく真剣な瞳でこちらを見据えた。
「そんな呑気なこと言ってていいワケ?」
「え…」
「赤葦、モテるぜ?」
「……」
「お前がウジウジしてる間に、他の女に持ってかれちまうかもな」
「…っ!…やだっ!!」
また同じ気持ちを味わうなんて、そんなの嫌。
散々痛い思いしたじゃない。
叶うものなら、赤葦さんの隣に行きたいよ…。
思わず声を上げた私を見て、光太郎さんは真顔を引っ込め、いつもどおりキラキラした瞳で笑う。
「だったら根性だ!俺がトス上げてやるから、女を見せろ!」
トス…?何…?
言っている意味を理解できないまま、赤葦さんが戻ってきてしまった。
気持ちを落ち着けるために、カクテルをひと口飲み込む。
「なぁなぁ、夏だしさ!今度は三人で花火行かね?」
「はぁ、いいですよ」
「汐里もいいだろ?」
「あ、はい。もちろん」
「今年はいつでしたっけ?8月の…」
赤葦さんがスマホで日程を調べてくれる。
その日は都合よく私も赤葦さんも休みだと分かり、それからの話題は専ら花火当日のことに変わった。
この近くでは毎年大きな花火大会があって、私も何度か赴いたことがある。
人でひしめき合うのが唯一の難点だけど、夏の風物詩を拝めることには心が踊る。
しかも、今年は赤葦さんも一緒なのだ。
赤葦さん、どんな浴衣が好みだろう。
新しい浴衣、買っちゃおっかな…。
会話を交わす傍ら頭の隅でそんなことを考える。
そんな中突然響いたのは、光太郎さんの大きな声。
「あぁーっ!!そう言えばその日、チーム合宿だったんだっっ!!」
頭を抱えつつ項垂れた光太郎さんの視線が、チラリと私に向けられた。