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フォンダン・ショコラ【ハイキュー!!】

第5章 glass heart【赤葦京治】



「ちょっとトイレー!」

ひとしきり喋り終わった光太郎さんが、そう言って席を立つ。
一人居なくなっただけで、一気に静かになるテーブル。
そんな中、冷めたリゾットを掬う私に静かな声が向けられた。

「食欲ない?」

「え…」

「それ、あんまり減ってないから」

「……」

さすが赤葦さん、気遣いの人だけある。
食が進まない私なんて、滅多にないことだもん。
どうしよう…何て言えば…。


「ごめん。もしかして、無理して来てくれた?」


返事を迷っている間に、彼の申し訳なさそうな声が入り込む。
そんな誤解はして欲しくなくて、咄嗟に大きく首を振った。


「全然無理なんかしてません!赤葦さんに会いたかったし!」


「え…」


ほんの少しだけ、目の前の瞳が丸みを帯びた気がする。
座っている状態だから目線が近く、すぐにわかってしまう赤葦さんの変化。

「…と、光太郎さんにも!」

取って付けたような物言いでごめんなさい…。
心で光太郎さんに謝って、それらしい言い訳を続ける。

「実は今日、お昼が遅かったんで…」

「ああ、そうだったんだ。大変だね」

「いえ…」

「それだけで足りるのかな?って、さっき思ったんだ」

「え。いつもそんなに食べてます?私」

「少なくとも月島よりは食べるよね」

「ふふっ…、それは否定しません」

当たり障りない談笑。
光太郎さんがいなくても普通に会話できることに、心底ホッとした。


それにしても、ほんとカッコいいな…。
今日はあんまり真っ直ぐ顔見られない。
これはもしかして、隣の席で正解だったのかも。
正面に座ってたら、否が応でも顔見なくちゃいけないし。
食事してる姿をマジマジ見られるのも緊張しちゃう…。




程なくして光太郎さんは席に戻り、それに代わるよう、今度は赤葦さんがテーブルから離れて行った。
一本芯が通ったような姿勢と、長く伸びる足、綺麗な体のライン。
その後ろ姿に見とれる私を、「汐里汐里!」と大きな声が引き戻す。

「はい?」

「俺うっかりしててさぁ!黒尾かツッキーに聞いた?赤葦のこと!」

言わんとすることが何なのかはすぐに分かり、小さく頷く。


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