第5章 glass heart【赤葦京治】
「だからさ、こうなるとちょっと話は変わってくるだろ?当たって砕けろなんて言ったけど、」
「……」
「え。おい、まさか…告白しちゃった…とか…?」
「…………してない」
「何だよ…。あー、焦った。ま、これもタイミングだよ。もう誰に遠慮することもねーんだからさ、頑張ってみたら?」
私は今まで、赤葦さんを諦めることしか考えて来なかった。
どうしたら、自分の気持ちに蓋できるのか。
どうしたら、赤葦さんの前で取り繕うことができるのか。
どうしたらこの恋に終止符を打って、一歩踏み出すことができるのか。
それなのに、今度は……
「頑張るって、どうやって…?」
「そりゃあ連絡マメにするとか、デートに誘うとか?」
「……そんな、」
そんな簡単に気持ち切り替えられない…。
だって私は、赤葦さんに告白して、振って貰おうとしていたんだから…。
「大丈夫か?」
言葉が途切れた私を不審に思ったのか、テツさんは腰を屈めて顔を覗き込んでくる。
私…諦めなくていいの?
まだ、赤葦さんを好きでいていいの…?
でも……
思わず、目の前の腕を掴んだ。
「ねぇ、テツさん。私どうしたらいいかわからない…」
「汐里…」
何でもいい。ほんの少しでいいから、いつもみたいに背中を押して欲しい。
あまりにも切羽詰まった私の声に、テツさんも困惑した表情を見せる。
次に続く言葉を待っていると、ふと視界の端に一人の女性が映った。
こちらを見ているその人へ目を向けてみる。
背の高い、綺麗な人だ。
「あ、買えた?」
「うん…。お待たせ」
自然と会話を交わす二人を見て、慌てて状況を察する。
「あ…ごめんなさい。一人じゃなかったんですね…」
「ああ…。悪い、汐里。また連絡するな」
「いえ。引き止めてすいません」
…会社の人、かな?
その女性に会釈をし、テツさんにも別れを告げて、一人電車に乗った。
別れたって、いつの話なんだろう。
一緒に遊園地に行った時。
もしかして、あの時にはもう…?
でももし、赤葦さんに遥さんへの想いが残っているのだとしたら。
別れてはいたって、私が立ち入る隙なんてないんじゃ…。