第5章 glass heart【赤葦京治】
*夢主side*
仕事が終わり、いつもどおり浮腫んだ脚を運びつつ、私は職場から駅までの道を行く。
季節は梅雨真っ只中。
毎日毎日うんざりする雨と湿気。
通勤時も纏め髪が欠かせない。
せめてお気に入りのヘアアクセとレイングッズを揃えることで、なんとか毎日を凌いでいる。
白いドット柄の入った赤い傘と、シンプルな黒のレインシューズ。
今日もそれを装備して、雨の中駅の構内へ辿り着いた。
傘を閉じ、改札へ向かおうとまた歩みを進める。
そんな中何気なく視線をコンビニのそばに移すと、やけに背の高い男の人が目に留まった。
トサカ頭…いや、黒髪のツンツン頭。
遠目でも本当に目立つ。
彼とは職場も近くて、駅の中やこの周辺で出くわすこともしばしば。
私は向かう先を改札からコンビニ方面へと変え、その人に声をかけた。
「テーツさん!お疲れ様です!」
こちらを振り返った気だるげな瞳の主。
その目は私を捕らえた途端、何かに思い当たったかのようにハッと形を変えた。
「汐里…」
「はい?」
「あぁぁ…!そうだった…色々あってすっかり忘れてたわ…」
テツさんは宙を仰ぐように首を仰け反らせ、手の平を額に当てる。
「え、何ですか?」
「あのさ、大事な話」
「?」
「落ち着いて聞けよ?」
「だから、何ですか?」
改めて私に向き直り、高い位置からこちらを見下ろすテツさん。
その顔は滅多に見られないような真剣なもので、心なしか緊張が走る。
「赤葦、彼女と別れたらしいわ」
告げられた "大事な話" は、予想もしていなかったもので…
私は言葉どころか、声を出すことすら忘れた。