第5章 glass heart【赤葦京治】
二人で雨の夜道を歩く。
時間にして、5分くらいで着くだろうか。
傘に当たる雨粒の音を聞きながら特に会話もない道中、頭の中にまた赤葦さんのことがぶり返す。
彼女と別れたっていう事実を聞いてから、実はずっと落ち着かない。
もし汐里と赤葦さんが上手くいったとしたって、それならそれでいいじゃん。
汐里の恋が成就するならめでたいんじゃない?って思うし。
僕には関係ないことだし。
別れた時に気まずいのは当人たちだし。
そんなことを脳内で並べ立てるけれど、考え終わった時に過ってしまう。
"赤葦さんの気持ちは、まだ分からないじゃないか"
"このままただ、黙って見てるのか" って―――。
その先は考えるなと、警鐘が鳴る。
2年以上も片想いしてきた汐里の気持ちが揺らぐことは、きっとない。
自分を追い詰めるな。
不毛な恋愛をしてきた汐里を、散々バカにしたのは誰だよ?
こんなことに悩むなんて時間の無駄だし、僕だってそんなに暇じゃない。
考えるべきことも、やるべきことも、他に山ほどある。
これ以上踏み込むな、と呪文のように心で唱える。
けれど、後になって身に染みる。
こんなにも汐里で頭をいっぱいにしておいて、
僕は一体、何を自分に言い聞かせていたんだろう。