第5章 glass heart【赤葦京治】
こんなわかりきってること聞いて、どうしようっていうんだよ…。
自分でも意味不明。
そしてもっと意味不明なのは、赤葦さんへの身勝手な苛立ちを感じてしまっていること。
僕はその苛立ちの正体がわからないような、バカじゃない。
でも、ソレを認めてしまったら……
「ツッキー、生春巻もらっていい?」
「…ドーゾ」
こっちが物思いに耽っていることなんて露知らず、相変わらず呑気な汐里。
「カレーと生春巻の組み合わせって、何か笑えるね。インド料理と中華料理!」
「生春巻はベトナム料理」
「え、そうなの?さっすがツッキー、物知り~!」
「別に普通デショ」
「そこは素直に "ありがとう" でいいのに!光太郎さんなんてね、この前カッコイイって褒めたら、 "もう一回言って" って褒め言葉欲しがってたよ」
「想像つくね」
「あはっ、でしょ?」
うん…木兎さんに対しての "カッコイイ" には、特別な感情が含まれてないってわかるから、ソレは感じない。
やっぱり、僕の胸の底がモヤモヤ渦巻くのは…
赤葦さんの名前が出る時だけ―――。
二人で夕食を食べ終えて少したった頃、汐里に電話が入った。
どうやら家族が帰ったらしい。
「じゃあ行くね。待たせてくれてありがとう。お邪魔しました」
「……ねぇ、」
靴を履き、玄関のドアノブに手を掛ける汐里の背中を呼び止める。
「ん、何?」
「……送ってく」
「え?いいよ、すぐそこだし」
「一人で帰して何かあったらこっちだって後味悪いでしょ」
少し視線をずらして早口でそう言えば、一瞬キョトンとした顔で黙り込み、すぐそれを綻んだ笑みへと変えた。
「ありがとう、心配してくれてるんだ」
「……」
ほんと、汐里の癖に何でそういうところはわかるのさ。
素直になれない僕の気持ちを代弁しないでよ……。