第5章 glass heart【赤葦京治】
リビングのテーブルにカレーとサラダ、僕が買ってきた惣菜と缶ビールを並べたところで、手を合わせた。
「イタダキマス」
「はい、どうぞ」
汐里作のカレーをスプーンで掬い、口内へひと口入れる。
「…味、どう?」
カレー特有のスパイスを鼻と舌で感じながら咀嚼していると、恐る恐るって感じでこちらを窺ってくる。
「美味しい」
「え?」
「…え?」
顔を上げて見れば、驚いた顔をした汐里と目が合った。
「美味しい?本当に?」
「うん…」
「わ!初めてツッキーに褒めてもらえた!」
「……」
ただ単にボーッとしていた。
さっき結論付けたばかりなのに、頭の片隅に赤葦さんのことが残ったままで。
まあカレーが美味しいのは本当だけど、いつもなら余計なひと言ってやつを付け加えていたと思う。
"美味しいのは市販のルーのおかげだから"
"カレー失敗する人なんていないデショ"
"野菜の切り方はやっぱ豪快だよね"
…なんて、いくらでも思い付く。
他に気が行ってたせいで、「美味しい」という部分だけを伝えたに過ぎない。
それなのに汐里は、そんなこと疑ってもないみたいに満面の笑みをこちらに向けてくる。
「やったぁ!ツッキーに美味しいって言ってもらえるの、すっごい嬉しい!」
……なんなの、それ。
「大袈裟」
「だって、いつも私が作るもの毒物みたいな扱いしてくるでしょ?だから他の人に美味しいって言われるより、よっぽど嬉しいよ」
もう…ほんとやめて。
すっごい、めちゃくちゃ、この上なく癪だけど…
今……
可愛い…って、思っちゃったし……。
呑気な笑顔を向けながら僕を真っ直ぐ見てくる汐里に、止めときゃいいのに、つい問いかける。
「じゃあ…赤葦さんだったら…?」
「え?」
「赤葦さんに手料理褒められたら?そっちのがもっと嬉しいんじゃないの?」
「そ、んなっ、赤葦さんに手料理披露する機会なんてないじゃん!」
「例えば、デショ」
仮定の話であたふたしながら頬を赤くした汐里は、今までの勢いをなくし、小さく呟く。
「それは……、うん……そう、だね……」