第5章 glass heart【赤葦京治】
すぐそこまで近づいたアパートまで二人歩き、帰り着いた部屋に汐里を入れた。
まさか、またここに汐里を連れてくるとは思いもしなかった。
「適当にテレビでも見てて。僕シャワー浴びたいから」
「ありがとう。ねぇ、晩ごはんどうするつもりだった?」
「惣菜買ってきたけど」
「それだけじゃ少なくない?カレー作っていい?」
「カレー?」
「うん、材料ここにある」
手に持ったエコバッグを掲げる汐里。
「家族が帰ってから作ったんじゃ遅くなるから、今日はもう外食してもらうことにする。だから雨宿りのお礼に、カレー」
「汐里の手作りって…大丈」
「大丈夫だし!」
食い気味に自信満々で返される。
まあ正直お腹は空いてるし、作ってくれるって言うなら…
「じゃあ、ヨロシク…」
「任しといて~!キッチン借りるね!」
「うん」
鼻歌混じりで料理を始める汐里を横目に、洗面所の扉を閉めた。
浴室に籠り、湿気と汗とをシャワーで洗い流す。
頭から飛沫を浴びながら、僕はあることを考えていた。
バーベキューの日。
あの場に汐里はいなかった。
赤葦さんが彼女と別れたこと、知ってるのかな。
誰かから聞いてるかもしれない。
でも、知らないままかもしれない。
だとしたら、教えてあげるくらい、してもいいんじゃ…?
ほんの少しの親切心が芽生えるものの、一方で「何でそこまで世話を焼かなきゃいけないんだ」と、冷たい感情を合わせ持つ自分もいる。
どっちつかずの気持ちのまま浴室を出ると、キッチンでは火にかけられた鍋がコトコト鳴り、汐里はサラダを作っているところだった。
「ねえ」
「え、何?」
「黒尾さんたちと最近連絡とってる?」
「ううん、向こうも仕事忙しいのかな。あ、バーベキューしたんだもんね?私も行きたかったなぁ。どうだった?」
「…うん、いつもどおり」
この感じ…やっぱ知らないっぽいよね。
どうする?
……ていうか、何で僕がこんなこと気にかけてやんなきゃなんないのさ。
「ね、ツッキー。サラダ持ってって」
「…うん」
まあ、いいや。
わざわざ僕が言わなくたって、きっと黒尾さんか木兎さんから聞くことになるんだから。