第5章 glass heart【赤葦京治】
桜の季節は終わり、世間はゴールデンウィーク。
いつものメンバーでバーベキューをすることになり、今、僕たちは赤葦さんの車で目的地へ向かっている。
今回汐里は仕事の都合で欠席。
まあ別にそれはどうでもいい。
この前の自惚れた発言にはしばらくイライラしたし、顔を見たらまた苛立ちがぶり返すかもしれない。
代わりに、黒尾さんが女友達を連れてくるとか。
このメンバーの中に汐里以外の女の人が参加するなんてことなかったから、ちょっと意外に思う。
赤葦さんでさえ、彼女を連れてきたことはないし。
その人との待ち合わせである駅のロータリーに到着すると、すぐに爽やかな笑顔の女性が車内に乗り込んだ。
「こんにちは」
スラッとしたスタイルの綺麗系。
化粧は薄めで、服装もシンプル。
ちょっと意外。
黒尾さんの友達って言うから、勝手にケバい女を想像してた。
それか汐里みたいなガチャガチャ煩さそうなの。
後部座席が三人になると、途端に窮屈になる。
隣が黒尾さんっていうのも大きな理由だ。
助手席で悠々鼻唄を歌う木兎さんが羨ましい。
「チョット黒尾さん。あんまり密着されると気持ち悪いんですけど」
「好きでくっついてんじゃねぇっての」
「そっち狭かった?てっちゃん、もう少しこっち来る?」
「あー、わりぃ」
友達だという女の人の口から、黒尾さんには似つかわしくないあだ名が飛び出す。
「 "てっちゃん" ?…フッ」
「ツッキー!今鼻で笑ったろ?」
「ハァ。顔に似合わない呼ばれ方してるなーと思って」
「ホント可愛くないね、お前」
……可愛さを求められても。
「ふふっ。仲いいんだね」
「仲いいよなぁ?ツッキー?」
仲いい?今の会話にそんな要素あったっけ?
その人の言葉を受けて悪ノリする "てっちゃん" をシカトしていると、勝手に僕の紹介を始めた。
「あ、こいつツッキーね」
「 "月島" です。よろしく」
「梨央です。よろしく、ツッキー」
「……」
「ウヒャヒャ!ツッキー、ざまぁ!」
やっぱり、黒尾さんの友達だというだけある。
見かけによらず馴れ馴れしい。
目的地である河川敷に到着するまで、黒尾さん・梨央さんペアとの会話は必須…。
またもや助手席の木兎さんが羨ましくなった。