第5章 glass heart【赤葦京治】
そんな汐里のペースに巻き込まれてしまえば、そのペースから引き返すことも面倒になり、結局一緒に食事をした。
料理もワインも、特にデザートのケーキは美味しかったから、ディナー自体は満足だった。
けど、問題はその帰り道。
夜桜を見たいとかめんどくさいことを言われ、渋々立ち寄った小さな公園。
酔ってるくせに注意散漫で、汐里は階段から足を踏み外しそうになる。
その体を受け止めた。
自分の両手と、胸で。
体に触れてみれば、可愛いげがない汐里と言えどもやっぱり姿かたちも香りも女で…。
ほんのちょっとだけ胸がざわめいた。
決して深い意味はない。
僕だって男だから、その程度は至って正常な反応。
―――と、自分に言い聞かせた。
それなのに、あのバカ女……!
僕の体にすり寄るみたいにくっついて、首元に顔を埋めてきたのだ。
前に不可抗力で押し倒した時は赤面してたから、酔ってるせいでその辺の感覚が鈍くなっていたのかもしれない。
でも、これが赤葦さんだったらどうだ?
酔っていようがなかろうが、絶対こんなことしない。絶対に…!
赤葦さん相手なら、抱き止められた時点で真っ赤になって飛び退くに違いない。
ホント男舐め過ぎ。
いや、僕を舐め過ぎ。
抱き寄せて、わざと煽るように髪に触れてみる。
桜の花びらを摘みつつ、指先を徐々に下の方―――耳、そして首筋へ。
案の定汐里は硬直した。
目を見開き顔を赤くして、身動きひとつしない。
ザマーミロ。
僕を男とも思わずにすり寄ってきた仕返しだよ。
煽れば煽るだけ、汐里はムキになる。
その姿を目の当たりにすれば、男としてのプライドが満たされていくのを感じた。
そんな中。
汐里はまたトンチンカンな爆弾を投下。
『ツッキーは私に意識してほしいワケ!?』
…………。
…………はぁ!?