第5章 glass heart【赤葦京治】
*月島side*
彼女がいる男を好きでいるなんて、どうしてそんな不毛なことができるんだろう。
理解できない。
どう考えたって、時間の無駄。
好きで居続ければ、いつか振り向いてくれるとでも思ってるんだろうか。
そんなドラマみたいな都合のいい展開、あり得ないデショ。
「しつこいよねぇ、彼女いるのに」
あの日、汐里の気持ちをたったひと言で否定した。
いつもどおりの嫌味。
汐里は負けじと食いついてくる女だから、別にそこに罪悪感を抱くなんてこと、今までになかった。
それなのに―――
何で泣きそうになってんのさ?
必死に赤葦さんへの想いを僕に訴えて、瞳を潤ませて。
赤葦さんに失恋したあのバレンタインの日ですら、涙なんて見せなかったのに。
傷つけた…?僕が…?
そんなことが頭を過り、ずっと胸のつかえが取れない。
いや、本当のこと言っただけだし…
そう首を振ってみても、涙目の汐里が頭から離れようとしない。
いつも元気でやかましくて、ああ言えばこう言う。
同い年だからか僕にだけ生意気。
そんな汐里しか知らなかったから、あんな顔を見せつけられて、ほんのほんの少しだけ…
同情してしまったんだと思う。
くじ引きで当てた、レストランのディナーチケット。
結構高級な店らしいけど僕は別に興味ないし、使わずにいるくらいなら汐里に譲ろうと思い立った。
食い意地張ってるから、きっと喜んで食事に行くに違いない。
まあ、半泣きにさせた罪滅ぼし?みたいな。
…いや、罪なんて別に思ってないけど。
とにかくそれを渡しに行ったら、ペアチケットだという理由で、何故か僕が一緒に行くはめに。
何でそうなったかって、汐里が調子狂わせるようこと言うから。
『この前は、八つ当りみたいなこと言ってごめんね』―――。
どうして…?
別に汐里に謝られることなんてされてない。
しかも、謝りたいがために遊びに行った先でお土産まで買ってきたらしくて。
ほんっと汐里っておかしな女。
プンスカ怒ってるかと思えば、妙に楽しそうに話しかけてくるし。
いつもそうだ。憎まれ口叩くくらいなら避ければいいのに、馴れ馴れしく僕のパーソナルスペースに踏み込んでくる。