第5章 glass heart【赤葦京治】
「テツさん、こっち!」
数週間後の休日。
駅前のカフェで待ち合わせていた私たち。
「悪い、待った?」
「全然。私もさっき着いたとこです」
友達と海外旅行に行こうと盛り上がり、旅行会社勤務のテツさんに相談に乗ってもらおうと呼び出したのだ。
学生の頃から旅行が趣味の私。
旅行貯金までして、いろいろな場所に行くのが楽しみのひとつ。
テーブルにパンフレットを並べ、コーヒー片手のテツさんに話を聞いてもらう。
「始めはグアム行こうかと思ってたんですけど、話してるうちにヨーロッパ行っちゃう?ってなってね?」
「そりゃまた全然違うな」
「でしょ?でもヨーロッパも行ってみたかったからいいんです。クリスマスのドイツって素敵じゃない!?って盛り上がって。どう思います?」
「まず、冬のドイツはクソ寒い。でも…」
「え!?そうなの?じゃ、やめる」
「やめんのかよ」
「だって寒いの無理。東京の冬ですら無理なのに」
そそくさとドイツのパンフレットをバッグへ仕舞い込むと、目の前でクツクツ肩を震わせるテツさん。
「おもしれーな、汐里は」
「褒め言葉ですよね?」
「もちろん。あ、夏ならどこもお薦め。イタリアやスペインは考えてねぇ?」
「スペインってどこだっけ?北欧?」
「大丈夫かお前?」
ツアーオプションやホテルの調整次第で、意外にも予算内で旅行できることが判明する。
ただしヨーロッパに行くにしては、そりゃあもう弾丸ツアーになってしまうけれど。
話を聞くうちスペインに興味が湧き、あとは友だちと相談して決めることにした。
「ありがとうございます、付き合ってもらって」
「いーよ。暇してたし」
この前テツさんに相談に乗ってもらって、自分の気持ちやこの先のことを沢山沢山考えた。
そして。
自分の中でひとつの結論を出し、近々それを実行しようと思う。
"その決意" を聞いて欲しかったのがひとつ。
それから、また少し元気をもらいたくて…
「テツさん。このまま、どっかデート……行きませんか?」
もうちょっと時間をもらえないか、持ちかけてみる。
「え?」
「天気もいいし、目の前には可愛い女の子。どうですか?」
こんな風にふざけると、いつも乗ってきてくれるのがテツさん。
でもせっかくの休みだし、急にこんなこと…さすがに迷惑かな…。
