第5章 glass heart【赤葦京治】
立ち入ったレストランは、以前来た時と同じで大きな窓から夜景が一望できる。
天気がいいお陰で、天窓から覗く星空も綺麗だ。
私たちは窓際の席に通され、向かい合って座った。
「ワイン、ボトルで好きなの選べるって。アルコール度数低いのこの辺だけど…」
「ツッキーに任せる」
ツッキーはワインも日本酒も焼酎も好きみたいで、お酒に詳しい。
メニューに目を落としながら、私でも飲めそうなものを選んでくれる。
「じゃあ、これ。口当たり優しいから飲みやすいけど、あんまり量飲まない方がいいからね」
「わかった」
私がお酒弱いの知ってるから、気を遣ってくれてる。
…やっぱり、優しいとこあるよね。
入れ替り立ち替りテーブルに並べられるお料理は、前菜からスープ、メインのお肉や魚、全て美味しかった。
頬っぺたが落ちるとはこのことか、上手い表現をする人がいたものだと、妙に納得した。
ツッキーが選んでくれた赤ワインは、甘味があって渋さは控えめ。
本当に飲みやすくて、ツッキーの最初のひと言がなかったら飲み過ぎていたかもしれない。
「私、もう止めとくね。あとツッキー飲んで?」
「汐里って意外とお酒の加減できるよね」
「 "意外と" って何?」
「どう見ても、飲み過ぎてグロッキーになるようなキャラでしょ」
「失礼だよそれ!あ…でも、ツッキーと初めて会った合コン、実は失敗した」
「え、そうだっけ?」
「うん。カラオケ行ったの覚えてる?気持ち悪くなって、ロビーで休んでた」
「一人で?危ないし」
「ううん。赤葦さんが付いててくれたの」
ツッキーたちと初めて会ったあの日。
飲み過ぎて、でもみんなに気を遣わせたくはなくて。
一人でいた私を心配してそばにいてくれたのは、赤葦さんだった。
ワイングラスを持ち上げた手を一瞬止めたあと、ツッキーはゆっくりそれをひと口含む。
光沢あるテーブルクロスへ静かに手を戻しつつ、「へぇ…」と小さく呟いた。
「だからもう人に迷惑掛けないように、ほろ酔いでストップすることにしてるの。今ちょっとフワフワするくらいだからいい感じ!」
「大丈夫なの?それ」
「ダイジョブダイジョブ。すごく気分いいよ」
あとはデザートを食べて、帰ってお風呂に入って眠るだけ。
今夜は熟睡できること間違いなしだ。