第5章 glass heart【赤葦京治】
待ち合わせの時間、ちょうど。
ツッキーのアパートの前まで辿り着いた私は、電話を入れて彼が降りてくるのを待つ。
"デート" なんて単語が頭を過ってしまったせいで、少し緊張してしまう。
何となく手持ち無沙汰で前髪を弄っていたら、背後から「お待たせ」と無気力な小さな声がした。
「あ、ううん…」
大丈夫、と言おうとしたものの、振り返った先のツッキーの姿に声を失う。
「…?何?」
「ツッキーって、モデルさんだっけ…?」
「は?」
「そういうキレイ目な格好も似合う!脚なが~っ!カッコいい!」
いつもカジュアルな格好が多いツッキーだけど。
今日のスタイルは、カッチリしたジャケットにシャツ、細身のボトムス。
小顔で美形で長身だし、さながら雑誌から抜け出してきたモデルのようで思わず興奮してしまう。
「ツッキーってスタイルいいから何でもカッコよく着こなせそうだよね!スーツとか制服とか、浴衣とか、チャイナ服とか!」
「チャイナ服なんていつ着るの…。人の体で変な妄想しないで。もう行こ」
「えー?褒めてるのに。変なの」
「変なのは汐里」
ツッキーって性格はアレだけどほんと目を惹くビジュアルだから、ついついミーハー心であれこれ想像してしまう。
コスプレショップとか行って着せ替えしたい…!
「…まだ変な妄想してるでしょ?」
歩き始めた私に視線だけを下ろし、ツッキーは冷めた声で言う。
「し…て、ないよ!お料理楽しみダネー」
「棒読み。汐里は考えてること顔に出るから。下手な嘘ついても無駄だよ」
「え?顔に出る?嘘!」
「ほんと。特に赤葦さん関係」
「ちょっ…」
予期せぬ人の名前がツッキーの口から飛び出し、顔に熱が篭ってゆく。
「もう…なんでいちいち赤葦さんの話題出すの…?」
「……何でだろ?」
「はい?」
質問を質問で返されても。
妙な間が出来てしまった私たちは、しばし無言でただひたすら歩く。
少し気まずくなりながらも、駅までは徒歩10分程度。
すぐに目的地に到着した。