第5章 glass heart【赤葦京治】
翌日の午後。
私は、夕べLINEを送ってきた主からの電話を待っていた。
スマホをテーブルに置いたまま、ペラペラ雑誌を捲る。
日中はすっかり過ごしやすくなった、四月。
そこに写るのは、春らしいヘアメイクで華やかに笑うモデルさんたち。
「もうすっかり春だもんなぁ。髪の色変えようかな…」
手鏡を覗きつつ髪を弄っていると、それは音を立てた。
一瞬心臓が妙な脈の打ち方をするが、構うことなく慌ててスマホの画面をスクロールする。
「…っ、もしもし?」
『家の前着いたケド』
「わかった、行くね」
通話をオフにして、遊園地のショップバッグを手に取り部屋を出る。
階段を降り玄関の扉を開け放つと、背の高い彼がすぐに目に入った。
「ツッキー!」
昨夜のLINE。
[渡したいものあるんだけど。明日家にいる時間教えて]
用件だけの、ツッキーらしいメッセージ。
でもツッキーからLINEしてくるなんて初めてで、正直驚いた。
最後に会った時、私は彼を責めるような言葉をぶつけてしまった。
あれは自分のモヤモヤした気持ちを当たり散らしたも同然。
だから私の方こそ、ツッキーに会って謝りたいと思っていたのだ。
「えっと…久しぶり?だね」
「久しぶり」
「LINEくれるなんて初めてだから、びっくりしたよ」
「うん」
「私もツッキーに会いたいと思ってて」
「…何?」
「この前…さ、私…八つ当たりみたいなこと言ってごめんね。感じ悪かったよね…」
恐る恐るそう言えばツッキーは一瞬黙り込み、そしてスッと私から視線を外す。
「……別に。気にしてないけど」
「そう?…あ、これ渡したかったんだ」
「?」
「この前遊園地行ったの。ツッキーに謝りたかったから、その口実に使おうと思って買った」
「そんなこと、バカ正直に言う?」
「あ、そっか」
笑いを噛み殺したような顔で私を見下ろすツッキー。
「何買ってきてくれたの?」
「キャンディーだよ」
「ありがと」
それを受け取る様子を見ながら、ツッキーにも尋ねる。
「ツッキーは?渡したいものって、何だった?」
「ああ…」
小さく返事をしつつ、ツッキーがボトムスの後ろポケットから取り出したのは、細長い封筒。