第5章 glass heart【赤葦京治】
「ま、よく考えてみたら?当たって砕けちゃった時は慰めてやるからさ」
テツさんの大きな手は私の頭をポンと撫で、また目の前の生ビールに移された。
「頼りにしてます」
私も冷たいだけの味気ない水を口に含む。
「テツさんは彼女つくらないんですか?モテるのに」
「俺の心を揺さぶる女に出会えないだけ」
「へー」
「おい!聞いといて気のない返事何だよ!お前こそモテんだからさ、わざわざ彼女もちの赤葦にこだわんなくてもいーじゃん?」
「人を好きになるって、そういうことじゃないでしょう?彼氏いる人好きになったこと、ないんですか?」
「ねーな」
「そうなんだ…。恋人がいるからって、好きな気持ちは簡単に消えたりしないんですよーだ!ま、テツさんも経験すればわかりますよ」
「言うねぇ~」
いつもどおりの軽快なノリに戻った私たち。
テツさんに聞いてもらったら、私の心もほんの少しだけ楽になった。
告白、か…。
今まで考えもしなかった選択肢。
テツさんの言うとおり、ちゃんとフラれなければ、私は前に進めないのかもしれない。
でも自分がスッキリするために赤葦さんを困らせるなんて、申し訳なくも思う。
もう一度、ちゃんと自分の心と向き合って考えなくちゃ…。
何となくこれからのことを整理できたところで、バッグからLINEの着信音が鳴る。
それを取り出すため手を差し入れると、クリームイエローの布地が目に入った。
赤葦さんがくれたハンカチ。
勿体なくてまだ使えないままでいるけど、お守りみたいに毎日持ち歩いている。
これを選んでくれた気持ちが、本当に嬉しかったから。
そう言えばこのハンカチ、私のどんなイメージと重ねてくれたのかな?
知りたいような、恥ずかしいような。
「どした?電話?」
「あ、いえ。LINEです。ちょっとすみません」
「おう」
テツさんの声で我に返った私は、スマホを手に取る。
「え…?」
アプリを開いて見ると、そこには予期せぬ人物からのメッセージが届いていた。