第5章 glass heart【赤葦京治】
*夢主side*
週末の、人で賑わういつものバー。
仕事帰りにテツさんと待ち合わせ、ここへ来た。
今日二杯目のピーチフィズを飲み干したところで目の前にあったグラスは下げられ、無色透明の液体に変えられる。
「何ですか、これ」
「何って。水だよ。もうこれ以上は飲むなよ?」
「わかってますぅー。ほろ酔いで止めとくのが一番いいって、学習しましたから」
「へぇ?そうだった?」
水の入ったグラスを持ち上げ、中の氷をカランカランと回す。
ひと口飲もうかと唇まで近づけるも、私はそれを止めため息と共にテーブルの上へ戻した。
「テツさん…」
「ん?話したいこと、あるんだろ?」
「さすがです…」
「何かあった?」
「……」
こういう時、絶対テツさんは急かしたりしない。
いくら私が黙ってても、話し始めるまで待っていてくれる。
痺れを切らされてもおかしくないくらいの間を置いて、私はやっとのことで声を漏らした。
「やっぱり、好き…」
「赤葦?」
「うん…。この前、遊園地行ったでしょう?もう、好きが溢れちゃいそうで、怖かった」
まず想定していなかったのは、あのお化け屋敷。
光太郎さんがお腹を壊し、私と赤葦さんだけで入ることになった。
二人きりの状況に緊張しつつ中を進んで行けば、怖がる私の手を握ってくれて、最後には強引に頭を抱きかかえられてしまったのだ。
もちろん、赤葦さんに他意はなかったことは分かるし、きっと私がビビり過ぎて呆れてたんだと思う。
でも。
その後だって、ジェラートが溶けるから、なんてよく分からない理由でまた手を繋がれて…。
ほんと、あれは何だったんだろう。
とにかく、あんなに赤葦さんに近づいたのも触れたのも初めてだった。
一生懸命ストッパーをかけなきゃいけない想いが自分の意思とは裏腹に膨れ上がり…
もう…手に負えない。
事の経緯を話し終わると、テツさんは唸りながら頭を捻り、腕を組んだ。
「変に気ぃもたせるようなこと、あいつがするとは思えねんだけどなぁ…。彼女と上手くいってないのか…?」
「え?」
「あー、いや。何でもねぇ。まあ、汐里だからほっとけなかったんだろ?」
「私…だから?」
「そんだけ大切なんじゃねーの?友達として。他の女にそういうことする奴じゃねぇもん」