第5章 glass heart【赤葦京治】
日はすっかり落ちて、辺りはまるでイルミネーションのように煌めき出す。
オレンジ色の光があちらこちらに浮かび、昼間の賑やかな雰囲気とは打って代わってムードがある。
デートの定番の場所だということも、クリスマスの時期に恋人たちがこぞってここを訪れるのも、分かる気がした。
俺たちの目の前では、今日最後のショータイムが繰り広げられている。
様々なキャラクターたちが華やかな衣装を纏い、沢山の電飾に囲まれた中で踊る。
現実離れしたこの場所で、今日は思っていた以上に気分転換できた。
誘ってくれた木兎さんにも、一緒に付き合ってくれた汐里にも感謝だ。
冷えた風がサワサワと頬を撫でていく。
春先とは言え、夜になればまだ寒さが残っているもの。思わず身震いする。
「さむ…」
パーカー一枚ではそれを凌ぐことはできず、無意識に肩を竦めた。
「赤葦さん。よかったらどうぞ」
「え?」
汐里が俺の目の前に差し出してきたのは、カイロだ。
「夜は冷えると思って持ってきたんです。光太郎さんも」
「おー、助かるー!サンキュー!」
そう言えば、前にもこんなことあったな…。
「ありがとう。あれ?もう温かいね、コレ」
「はい、温めときました~!」
得意気に笑う汐里に釣られて、自分の頬が綻ぶのが分かる。
カイロを両手で包んで、汐里はショーに視線を戻した。
その大きな瞳に映り込む、電飾の輝き。
「わっ」とか「綺麗」とか呟きながら眺める姿が、無性に愛らしく見える。
そうか…
今までの俺は、この子を見ているようで直視出来ずにいたのかもしれない。
冷えた手がじんわり温まってくるのを感じながら、汐里がくれたそれをギュッと握り締めた。
「ありがとう、汐里」
「え?いえ、三人分持ってきたから大丈夫ですよ」
うん…カイロのことじゃないんだけどね。
また、密かに含み笑い。
遥と別れた日。
粉雪が降っていた真冬のあの日から、俺の時間は止まっていた。
でも…
ずっと冷え固まっていた心に、今日、春の風が舞い込んで来た気がする。
俺の胸の中が一日中温かかったのは、ここが夢の国だから、という理由だけではない。