第5章 glass heart【赤葦京治】
近づいて、その手の中を覗き込んでみる。
「迷ってるの?」
「はい。マシュマロかキャンディー。どっちがいいかな…」
「家族に?」
「いえ、ツッキーに」
「……え。月島?」
意外な名前に、一瞬思考が止まった。
これが黒尾さんなら分かる。
元々二人は仲がいいし、わざわざ土産を選んで渡すと言っても何も不思議じゃない。
でも…
汐里と月島が個人的に親しいだなんて、考えもしなかった。
「会ったりするの?月島と」
「いえ、家が近所だからバッタリってくらいですけど。実はこの前ちょっと言い過ぎちゃって。謝る口実にお土産買って帰ろうかと」
「へぇ…」
会えばいつも憎まれ口を叩いてる二人だけど、本気でいがみ合っている訳ではない、ということくらいはわかる。
言いたいことを言える分、お互いに心を許している…ような気もする。
月島と汐里、か…。
「ツッキー、どっちが好きですかね?」
「んー…どっちでも食べるんじゃない?」
「そっか。じゃあ…キャンディーにしよ!買ってきますね」
「うん」
意外なカップルが脳内に出来上がり、しばしボンヤリと考える。
まあ、いい奴だよな…月島。
ちょっとひねくれてるだけで、優しいとこあるし。
何だかんだ真面目だし。
でも…
何だろう…
さっき一瞬、胸にザラッとしたものが掠めていったような…
「なあ、赤葦!どっちがいいと思う?」
考えに耽る間もなく、大きな声が俺を引き戻す。
木兎さんの両手には、黒と白のTシャツが一枚ずつ。
「…黒い方ですかね」
「黒か!こっちはシンプルでカッコいいんだよなー。でもさ、白も爽やかで良くね?」
「木兎さん、白なんて着たらカレーも激辛ラーメンも食べられませんよ」
「なっ、そうか!そりゃダメだわ!!…あっ!じゃあ白は練習着にして、黒を普段着にすりゃいいか!」
結局両方買うのか。
それなら何故俺に選ばせたんだろう。
レジに向かう木兎さんの背中を見送りながらそんなことを思えば、先程の胸の違和感のことは忘れ去られていった。