第5章 glass heart【赤葦京治】
確かに、この現状は嘆きたくもなる。
でも、それよりも…
「ブハッ…!ははっ…」
ちょっとヤバイ…
堪えきれない笑いが込み上げてくる。
「ど、どーした?赤葦…?」
「ほらぁ!赤葦さんおかしくなっちゃった!」
「うぇ!?風邪ひいた!?もう熱が上がってきたとか!?俺どーすればいい!?」
あたふたする二人を視界の端に捉えつつ、呼吸を整える。
「いや…大丈夫です。ハハッ…、いい大人が三人濡れネズミなんて、可笑しいなと思って」
「……ああ!ミッチーマウスとネズミを掛けたんですね!」
「違うよ」
「なるほど!さっすが赤葦!賢いな!」
「だから違いますって」
変なボケをかます二人はさておき、取り合えずトップスだけでも着替えなければ本当に風邪を引いてしまいそうだ。
「俺、着替え買ってきます」
「いや、お前らは待ってろよ。俺のせいで濡れたようなもんだし!な!?」
そう言って駆け出していく木兎さん。
ここはお言葉に甘えることにしよう。
幸い昼間は暖かい。着替えさえすれば、髪の毛くらい日暮れ頃までには乾いているはずだ。
程なくして、木兎さんがショップバッグを抱えて戻ってくる。
「ほい、これは汐里な!んで、赤葦と俺はこれ!」
「……何で木兎さんと俺がペアルックなんスか」
「え?赤葦もこれ気に入ると思って」
買ってきてもらって文句を言うのもなんだが、突っ込まずにはいられない。
前面にミッチーがプリントされている、黒のパーカー。
まあ園内で着る分には許容範囲。が、せめて色違いとかキャラ違いとかなかったのだろうか。
「いーじゃん、いーじゃん!オソロのパーカー!!」
「可愛い!早速着替えて来てくださいよ!」
汐里は女の子のネズミがプリントされたパーカーを腕に抱えている。色はグレー。
ほら、色違いもきっとあるんだよな…?
「まあ、濡れたままではいられませんからね。ありがたく着ますよ」
遊びに来た先で風邪を引いていてはどうしようもない。
トイレを借りて、俺たちはそれぞれパーカーに袖を通す。
外にはタイミング同じくして出てきた汐里がいた。
俺たちを見比べ、勢いよく笑い出す。
「あははっ!ペアルック可愛い~!」
汐里はさも楽しそうに腹を抱えている。