第5章 glass heart【赤葦京治】
俺と汐里は顔を見合わせるなり、どちらからともなくフッと笑った。
「光太郎さんて、ほんとたまーに、すっごくカッコいいですよね!」
「えっ、そうかぁ!?」
"たまーに" という部分は聞こえていなかったのか。
はたまた、自分の都合のいいことしか聞こえない耳の造りなのか。
木兎さんは満更でもなさそうに豪快に笑い始める。
まあ、汐里の言うことには同感だ。
木兎さん自身決して意図している訳ではないはずだが、ふいに妙な男っ振りを見せつけてくるから戸惑うこともしばしば。
けれど俺は、それを口にしたことはない。
その点、やっぱり汐里は素直だと思う。
「なあ汐里!もっかいカッコいいって言って!」
「え。頼んで言ってもらうの嬉しいですか?」
「嬉しい!!」
「即答!?そうやって欲しがるとこがイマイチですよね」
「おまえ~っ!上げてから落とすなよぉ~!」
木兎さんが加わったことで一気に賑やかしくなる。
まるで兄妹みたいにじゃれ合う二人と共に、木兎さんの希望で次のアトラクションへ足を運ぶことになった。
何やら、池に突っ込むタイプ(?)のジェットコースターらしい。
「これ、濡れませんか?」
「んあ?平気だろ。天気もいいし、多少濡れてもすぐ乾くって!」
「そうですかね…」
俺としたことが、うっかり落下地点を確認しそびれてしまった。
今いる乗り場からは、ゴールでどうなるのかが全く見えない。
ただ、売店で買ってきたであろうカッパを着ている人がチラホラいるのがスゲー気になる…。
「何か嫌な予感する!やっぱり私、カッパ買ってきます!」
「おいおい、買いに行ってる間に俺たちの番くるぞ?」
「えー、でも…」
「大丈夫だ!俺を信じろ!!」
今、俺と汐里は猛烈に後悔している。
木兎さんの「信じろ」を信じたことを…。
「だから言ったのにー!びしょ濡れじゃないですか!」
「いや!だってこんな濡れると思わなかったんだって!ほら、下はそんな濡れてねーし!?俺が責任もって三人分の服買ってくるから!な?な?そんな怒んなよぉ!」
「怒ってませんけど!嘆いてるんですぅー!」
このタイプのジェットコースターは想像以上の水しぶきで、俺たちは雨に打たれたように濡れてしまったのだ。