第5章 glass heart【赤葦京治】
「お化け屋敷なんてもう二度と御免です…五年は寿命縮まった気がする…」
「あ、あれ食べる?」
ぐったりしている汐里の隣に、数種類のジェラートを掲げた露店が見える。
それを指すと、彼女はパッと頭を上げ目を輝かせた。
「食べます!」
アイスで釣ろうとした俺に "子どもじゃない" と主張してきたのは、ついさっきの話。
クルクル変わる表情が愛らしくて、密かに和む。
「買ってくるよ。何にする?」
「いいんですか?どうしよ…ストロベリーかな。でもやっぱ定番のバニラ?」
「メロンとかオレンジもあるよ」
「うーん…美味しそうだけど、やっぱりバニラで」
店先のメニューボードをひととおり眺めてはいたが、やはりバニラが好みらしい。
アイスを食べようという時、いつも汐里はバニラがストロベリーを選んでいる気がする。
「意外と冒険しないんだね」
「ふふっ、よく言われます」
「じゃあ待ってて」
「はい。私、光太郎さんに電話してみますね」
「うん、よろしく」
そうそう、肝心の木兎さんはどこへ行ったのか。
スマホをチェックしてみても、俺のところにはLINEも着信もない。
まだトイレに籠っているわけではないといいのだが…。
さして混んでもいないから、すぐに二人分のジェラートが手に入った。
木製のベンチに座り、スマホに何やら打ち込んでいる汐里が目に入る。
そこへ足を踏み出そうとした時。
すぐそばにいる三人組の男の視線が、汐里へ向けられていることに気づいた。
「おいあの子、スゲー可愛くね?」
「うおっ、マジ可愛い!友達と一緒かな?」
「どうだろ?彼氏かもしんねーし。女同士だったら纏めてナンパするか」
「いやー、でも正直あの子いればいいよな。つーか顔もいいけど、細い割に結構胸おっきくね?一回ヤリてぇ!」
「お前、ナンパした子食ってばっかいるよな」
「まーな。でも、あの子は脱いだとこ想像するだけで余裕でヌける!」
……なんつー下衆な会話だよ。
確かに汐里は顔の造りが華やかだし、目を惹く容姿だとは思う。
きっとモテるのだろう、ということも想像がつく。
だからと言ってこんなにも露骨に性的な目を向けられるとあっては可哀相だし、聞いてるこっちも気分が悪い。