第5章 glass heart【赤葦京治】
急病じゃないのならまだ良かったけど…。
そうこうしているうちに、前にいたカップルが中へと入っていく。
次はいよいよ俺たちの番だ。
「せっかく並んだのに、木兎さん間に合わないね…」
さっきから黙り込んでいる汐里に投げ掛けてみるが、ほんの小さく頷くだけ。
どうしたのかと、少し腰を屈めた。
「怖い?」
「いえ…!あ、…ちょっと…わかりません…」
「ふっ…、わからないの?」
怖いか怖くないかがわからないとは、どういうことなんだ?
思わず気の抜けた笑いが漏れてしまう。
「あ…、私、お化け屋敷ってあんまり入ったことなくて…」
「そうなんだ。じゃあ俺と一緒だ」
「はい…」
入り口に立つスタッフに声を掛けられる。
案の定間に合わなかった木兎さんを置いて、俺たちは暗闇の中に足を踏み入れた。
そこに立ち入った途端、辺りはひんやりとした空気に変わる。
中は古い学校を模した内装。
木造のセットで、昭和初期あたりをモデルにした感じだろうか。
明かりは壁と足元に僅かしか灯されていないし、じめっとした雰囲気が不気味だ。
俺の後ろから、そろそろと付いてくる汐里。
この雰囲気…作り物とは言え、女の子には怖いのかもしれないな。
足元に気を付けながらゆっくり進んでいると、背後でカタン、と物音が鳴る。
「…!?」
振り返った先には、真っ白い顔をしたセーラー服の女生徒が、床に這いつくばってこちらを見ていた。
「きゃあぁああぁっ…!!!あかっ、あかあかあかっ…、あかーしさん!!アレ!アレ!!見えてる!?私だけ!?」
幽霊(役のスタッフ)に、心臓が嫌な音を立てたのは確かだ。
だが汐里のリアクションにはもっと驚いた。
まるで本物の幽霊が出たかのように怯え、俺の背中にしがみついてくる。
「大丈夫、俺にも見えてるよ」
ちゃんと耳に入っているかはわからないけれど、取り合えずそう返す。
幽霊(役のスタッフ)は俺たちの反応を確かめたあと、蜘蛛のように床をカサカサ這いながら、そばの教室へと入っていった。
お化け屋敷ってこう、大きな音と共に生首がドーンと飛び出て来たり…そんなイメージだったんだけど…。
まるでホラー映画の中に入り込んでしまった気分だ。
これは確かに、背筋がゾクッとするかもしれない。