第5章 glass heart【赤葦京治】
二人きりの車内。
グラグラ揺らめく私の想いを隠すべく、明るくやり過ごす。
「向こう着いたら何乗ります?」
「そうだね…まあ、定番のジェットコースターとか?汐里乗れる?」
「大好きです。あ、光太郎さんアレ着けると思いません?」
「何?」
「ミッチーの耳!」
遊園地のマスコットの、有名なネズミ。
光太郎さんのことだから、真っ先に買いに行ってノリノリで装着しそうだ。
「ああ…着けそうだし、俺たちの分も勝手に買ってきそう…」
げんなりした顔をした赤葦さん。
その予想は、もはや確信に近いのだろう。
「めちゃくちゃ想像できますね…。まあ最初だけ着けてシレッと外せばバレないかも。でも着けてる人多いし、キャラクターの帽子まで被ってる人もいるし。馴染むと思いますけどね」
「…馴染む?そうなんだ…」
意外そうに唸る赤葦さんを不思議に思う。
もしかして…
「あんまり遊園地とか行かないです?」
「最後に行ったの、高校生の頃かな」
「そうなんですか!?じゃあ、今日は楽しみましょう!せっかくですから!」
突然声を張ったからか、赤葦さんは目を丸くして私を見た。
そのあと、少し瞳に影を落として小さく笑う。
「そうだね。ちょっと気分転換しなきゃと思ってるし」
「…お疲れですか?」
「ああ…うん。仕事がね、忙しいから」
前を見据えて運転を続ける赤葦さんに、ほんの僅かな違和感を覚えた。
気分転換「したい」じゃなくて、「しなきゃ」…?
微かに引っ掛かりはしたけど、言葉の選び方に大した意味なんてないだろうし。
そこを掘り返すのはやめておこう。
目前に迫った光太郎さんのマンション。
もうすぐ着く旨を、私から電話で知らせる。
光太郎さんが降りてくるまでの間数あるアトラクションを思い浮かべながら、赤葦さんが楽しめそうなものは何だろうと考えを巡らせた。