第5章 glass heart【赤葦京治】
「…からかわないで…!男の人とこんな体勢になったら、誰だってそうなるよ!」
精一杯声を絞り出してみれば、ツッキーはフッと肩を揺らして笑う。
「汐里って男慣れしてないんだね?初めて可愛いと思…」
そこまで言い掛けて、口をつぐむツッキー。
「…?男慣れしてないのが何なの…?悪い?」
「悪いなんて言ってないデショ…」
ツッキーは私の手から手紙を抜き取ると、そこでようやく体を起こしてくれた。
「……彼女からの手紙?」
私も体勢を戻しつつ、ツッキーを見上げる。
視線の先の彼は、心なしか照れ臭そうに眉をひそめ、ポツリと呟いた。
「……元カノ」
「……へぇ」
「未練があるとかじゃないから」
「別にそんなこと言ってないけど」
「……」
「ツッキーってそういうもの取っとくタイプなんだね。別れた瞬間捨てちゃいそうなのに」
「あのさぁ…そんな人でナシみたいに言わないでくれる?一生懸命書いてくれたのわかってるのに、簡単に捨てたりしないよ」
ツッキーはテーブルへ戻ると、小さくイタダキマス、と呟いてから苺をひとつ摘まんだ。
「次に彼女が出来た時には、ちゃんとするけどね」
「そうなんだ…」
ちゃんとするってことは、処分するってことだよね?
"捨てる" って言い方をしないところに、何だかツッキーの優しさを垣間見た気がした。
テーブルを挟んでツッキーと向かい合う。
ちょっとツッキーに対する見方が変わったかも。
辛辣で意地悪な印象が強かったけど、大切な女の子のことはきっとすごく大事にする人なんだ。
…別れた後でも。
「ツッキーって手厳しいしさ、私ツッキーを好きになる女の子は大変だなーって思ってたんだ」
「はぁ?」
「でも、ちょっと今思い出したことがあって」
「…?」
「ちゃんと優しいんだよね。ツッキーって」
そう言えばそうだった。
つい意地悪なイメージばかりが先行していたけど。
私が赤葦さんに失恋した時。
あの時も、ツッキーなりの優しさをくれたじゃない。
「何かよくわかんないけど、そういうの調子狂うからやめて」
「そういうのって?」
「いきなり素直になってニヤニヤするの」