第5章 glass heart【赤葦京治】
「ああ…ちょっとまとめ買いをね…」
「…貸して」
「え?」
ツッキーが長い手を私に差し出した。
「持ってあげるって言ってんの」
「い、いいよ!重いし!ツッキー手折れちゃうよ!」
「折れるわけないデショ…」
そう言って私の手から荷物を奪って行くツッキー。
食材で膨れたエコバッグを軽々手にすると、そのまま無言で歩き出した。
歩幅の大きなツッキーに追い付こうと、小走りでその隣に並ぶ。
重くないのかな…?
見上げた先の顔は、いつもみたいに涼やか。
全体的に細身のツッキーだけど、やっぱり男の人だ。
それにさっき近づいてきたのって、きっと私が重そうに歩いてたから…だよね…?
何かツッキーって、冷たいのか優しいのか分かんない時あるな…。
赤葦さんに失恋したバレンタインの時も、チョコ3人分貰ってくれたし。
あの日のことは、みんなには黙っててくれたし。
特に会話もないまま、自宅に到着した。
ツッキーは荷物を私に手渡す。
「どうもありがとう」
「じゃあ」
それだけ言って、さっさと来た道を戻ろうとする。
ちょうどそのタイミングで、我が家の愛車からお母さんが降りてきた。
「あら?こんばんは…」
ツッキーの姿を捉えると私に視線を送り、口元を緩ませる。
何を言おうとしているのかはすぐにわかった。
「えっと、汐里の…?」
「カレシじゃないからね?」
口にされる前に否定しておく。
いつかの赤葦さんのことと言い、うちの母はどうしても私に彼氏を作りたいらしい。
「どうも。月島と言います」
「友達だよ。ほら、角のアパート。あそこに住んでるの。買い物の荷物持ってくれたんだ」
「まあ、それはわざわざ…ありがとうございます」
「いいえ。じゃ、僕はこれで」
「ありがとね、ツッキー。おやすみなさい」
「オヤスミ」
小さく手を上げ、お母さんにも軽く会釈をしてツッキーは帰って行った。
その後ろ姿を見ている隣から、感嘆の声が漏れる。