第5章 glass heart【赤葦京治】
それから数日後の夜。
いつもどおりスーパーで夕飯の材料を買ったあと、とぼとぼと重い足を引きずって家への道を歩いていた。
エステティシャンという職業柄ほとんど立ち仕事だから、一日の終わりはいつもこうなる。
温かいお風呂に浸かってゆっくり脚の疲れをほぐそう。今日はどの入浴剤使おうかな?
いくつかストックしてあるそれを思い浮かべながら家へ向かっていると、後ろに人の気配がする。
「……」
やだ…何か気味悪い…。
足音静かだし、距離近くない?
いきなり走り出してみよっか…?
でも追い付かれたらどうしよう…。
そうだ…!いざとなったら食材でパンパンのエコバッグで殴ってやる…!
それから家までダッシュして警察に電話して…。
心の準備をして大きく息を吐き、恐る恐る後ろを振り返る…。
「ねぇ、」
「ひゃあゃあぁあああっ!!!」
すぐそばに立っていた男の人に、思わず悲鳴を上げた。
誰かいることはわかっていても、こんな巨人みたいに大きな人だとは夢にも思わなかったのだ。
「チョット…!変質者が出たみたいな声出さないでよ!」
「ツツッ、ツッキーこそビックリさせないでよ!!もっと明るく近づいて来れないの!?」
「無茶言わないでくれる?」
「あのねぇ!女一人で夜道歩いてるとこ真後ろに立たれたら、ほんっと怖いワケ!!わかるでしょ!?」
変質者かもしれないと思ってた人の正体はツッキーで…。
安心したのと無駄にビクビクして腹が立ったのとで、つい当たり散らしてしまう。
ふと黙りこんだあと、小さく呟くツッキー。
「……ごめん」
「……」
こんな素直に謝るツッキーなんて、初めてかも。
ちょっと言い過ぎたかな。
「…私も、ごめん。あんまりにもビックリしたから、つい…」
「うん」
「今帰り?」
「そう。"ソレ"、買い過ぎじゃない?」
ツッキーは私が持っているエコバッグを指さす。
今週は帰りが遅くなりそうだから、数日分食材をまとめ買いした。
正直かなり重い。
ツッキーの言うとおり、買い過ぎだったとちょっと後悔しながら歩いていたくらいだ。