第5章 glass heart【赤葦京治】
赤葦さんに会った途端、心が一気に数ヵ月前に逆戻りした。
真っ直ぐ目を見て話せないくらい胸がドキドキして、でも綺麗な横顔だけでも目に映したくて…。
ほんのり笑う顔が好きだって思った。
声も、髪も、指も、仕草も。
赤葦さんが纏っているもの、みんな愛しくて焦がれて…。
この人の全てが好きだ。
私、恋をしている―――。
赤葦さんを目の前にして、改めてこんなにもはっきりと自分の気持ちを自覚した。
それから赤葦さんに会うのは数ヵ月毎。
同じことの繰り返しだった。
しばらく会ってなからきっと大丈夫…なんて根拠のないことを思うんだけど。
会った時には、見事に落とされてしまう。
そんな堂々巡りをしているうちに、新たな恋も出来ないまま2年という月日が経っていた。
「諦めが悪いですよね…いつまでも好きでいるなんて…。しかも遥さんの姿見て更に落ち込むとか、自分でもほんっと面倒くさい…」
「まあさ、好きでいるのは自由なんじゃん?」
「そうそう!元気だせ!!ほら、俺のビール飲むか!?」
光太郎さんがジョッキを差し出してくれるけど…
「私、ビール飲めない…」
「おお、そうだった!汐里は甘いカクテルが好きだったよな!じゃあ、どれにする?」
メニューを私に向けて、光太郎さんはいつもどおりに明るく接してくれる。
「お前酒あんま強くねーんだから、無理して飲むなよ?」
テツさんも同じく、やっぱり頼れるお兄ちゃんって感じ。
光太郎さんですら今日はそう思える。
あ…そもそも光太郎さん、二つ歳上だったっけ。
「赤葦さんが二人いたらいいのになぁ…」
彼らの優しさをありがたく思いながらも、頭は現実逃避。
「そしたら…ちょこっとは意識してくれたりしないかな…」
テーブルに届いたカルーアミルクを私の目の前に置いて、テツさんはフッと笑った。
「冗談でも "もし彼女と別れたら" なんて言わないとこが汐里らしいよな」
「……そんなこと、言えない。赤葦さんも遥さんも、お互い好きで一緒にいるんだから…」