第5章 glass heart【赤葦京治】
「お?どうした汐里!食い過ぎか?飲み過ぎか!?何か悩みか!?ん?」
今まで気を遣わせたくなくて、ツッキーにしか言わなかった私の気持ち。
でも今日はもう、取り繕うのが辛い。
「…昼間、赤葦さんと遥さん…見ちゃったんです」
「え?マジ!?どんな子だった!?可愛い!?美人!?」
前のめりになって、光太郎さんは声を弾ませる。
「…木兎、やめとけ」
短く制してくれたテツさんの声を聞きつつ、私は顔を上げた。
「綺麗な人でした。大人っぽくて、品のいい感じ。私とは…正反対…。すごくお似合いだった…」
「……… "私とは" って。な、んだよ、それ…。お前、もしかして…」
小さく首を縦に振る。
私たちのテーブル席だけ、シンと空気が静まり返った。
「え?ちょ、いつから…?」
「ちょうど2年前…ですかね」
「は!?そんな前から!?言えよ!」
「言ったってどうにもならないじゃないですか…。みんなに気を遣わせるのも悪いし…」
あたふたと私に詰め寄っていた光太郎さんは、脱力したように椅子に腰かける。
「はぁ…それにしても2年って…一途かよ…」
「一途ぶる気はないです。誘われたら合コンとか行くし。でも…他の男の人見ると余計に思っちゃうんですよ。やっぱり赤葦さんいいな…好きだな、って…」
「そういうのを一途って言うんじゃねーの?」
到着一番で頼んだ生ビールがテーブルに置かれたけれど、光太郎さんはそれに手をつけようとはしなかった。
2年前のバレンタイン。
赤葦さんに失恋したあの日。
もう会わない方がいいのかもしれない、とさえ思った。
今以上に辛い思いなんてしたくないし、万が一遥さんに会ってしまったら、それこそ立ち直れない気がして。
でも危惧していた機会はなかなか訪れなかった。
みんな社会人だし仕事もあるし、考えてみれば当然だ。
光太郎さんからの電話で、久しぶりに飲み会しよう、と誘われたのが数ヵ月あとのこと。
赤葦さんのことが気にならないわけじゃなかったけれど、あれからだいぶ時間も経ってるし。
きっと大丈夫、気持ちも薄れてる…。
そう、思ってた。
けれども……