第5章 glass heart【赤葦京治】
*夢主side*
見たくなかった―――。
街中に溢れている、恋人たち。
こんなに沢山の男女がいる中で、どうして目にしたくない二人を見つけてしまったのだろう。
夜はテツさん、光太郎さんと飲む約束をしていたから、その前に一人買い物をするつもりで街に出た。
洋服を見たり、雑貨屋さんや靴屋さんに入ったり。
あれこれ見て回ったのはいいけれど、買ったのは結局愛用のマスカラ一本。
これなら近所のドラッグストアでも買えたな…なんて考えていれば、歩き疲れて足が重いことに気づく。
手近なカフェにでも入ろうかと、辺りを見回していた時。
その人を見つけた。
黒くてゆるやかな癖毛。
スッと伸びた背筋は、元々の高身長を更に際立たせている。
視界に入ればふと目を留めてしまうような、綺麗なシルエット。
赤葦さんだ…。
そして隣に並ぶのは、恐らく……。
私が向かおうとしていたカフェへと入っていく二人。
出入口の扉に手を掛け、"彼女" を先へ店内へ促す姿。
赤葦さんなら、誰が相手だろうときっとその振る舞いは変わらないと思う。
でも二人が纏う雰囲気であれが遥さんなのだと、私にはわかった。
「おーい、汐里。ダイジョブかー?」
「ダイジョブ…じゃないです…。実際二人でいるとこ見ちゃうと…こう…」
フラッシュバックする、つい数時間前の出来事。
一緒にいるのが気心知れたテツさんだということで、私は隠しきれない胸の内をお酒の勢いで吐露してしまった。
「……今更ですけど。テツさん、気づいてました?」
テーブルに突っ伏していた顔を少し上げ、目の前のトサカ頭のセンパイをチラッと窺う。
「気づいてねーのは木兎だけだろ?」
呆れたように頬杖を付きながら、こちらにお水を差し出してくれるテツさん。
そうだよね…
勘のいいテツさんが私の気持ちに気づいてないなんて、あり得ない話。
「ナニナニ、俺の噂ー!?」
すっかりアルコールが回ってる私の背後から、よく通る元気な声。
「わりぃ、遅れて!」
私の隣の空席に腰掛けて、「何話してたんだ?」なんて呑気に顔を覗き込んでくる。