第5章 glass heart【赤葦京治】
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酷く気を張っていたのがわかる。
虚無感に襲われるとはこういうことか。
一人きりになったカフェのテーブル席から、ぼんやりと外を眺める。
行き交うのは、楽しく休日を過ごしているであろう親子連れ、学生、そして…恋人たち。
この数ヵ月……
特にあのメッセージを見てしまってからは、遥に対して疑心暗鬼だった。
遥だって、他の男への想いを抱えながら俺といるのは心苦しかっただろう。
終わることが、二人のためだった。
そう、思いたいのに……
すぐそばを女性の店員が横切る寸前で、俺はそれを呼び止める。
「すみません。…レモンティーのホットを、追加でお願いします」
自分でも女々しいと思う。
普段好んで飲むものではない。
きっと、遥の名残を感じていたいのだ。
運ばれてきたそれをひと口啜ると、やたらレモンの酸っぱさと紅茶の渋さが舌に残った。
カップの中のレモンティーの嵩を減らしながら、ただ時間をやり過ごす。
気づけば店内は先程までより賑わいを見せていて、いつまでも自分がこの席を占領していてはいけないと我に返った。
すっかり冷めてしまったそれをまた、ひと口だけ腹の底へと流し入れる。
すると視界の端にふわりと落ちてくる、何か。
―――雪、か?
ガラス越しに空を仰げば、灰色の雲をバックに白い雪が舞い降りてくるのが見えた。
地上に落ちたそれは、すぐに形をなくしアスファルトに吸い込まれていく。
どうせなら、どしゃ降りの雨なら良かったのに。
遥にあんな思いをさせていた俺。
それに気づけなかった俺。
遥への想いを、ちゃんと伝わるように愛してやれなかった俺。
こんな情けない俺なんか、いっそのこと雨に打たれたら良かったんだ…。
俺の心なんて知りもせず、小さなそれはふわりふわり、静かに踊るように降りてくる。
ああ…でも…
ひんやり冷たいのであろう、この儚い結晶の塊。
酷く冷えきった俺の胸の内と、きっとそれだけは唯一同じだ。
遥との最後の日。
冷めたレモンティーと、風に舞う粉雪。
俺の元に残されたのは、ただそれだけだった。