第5章 glass heart【赤葦京治】
時間はランチタイムが終わった頃合い。
今なら待ち時間もなく、すんなり店に入ることが出来るだろう。
遥と並びながら、目当ての店へ向かう。
今までに何度も訪れたカフェ。
歩いていく傍ら、雑貨屋や洋菓子店、パン屋など、遥と入ったことのある店が目に留まる。
この駅の周りだけでも、二人の思い出が息づいている。
目的の店が見えてきた。
ドアを開け、先に遥を通してから中に入ると、予想どおり空席の目立つ店内。
案内された窓際の席へ、俺たちは向かい合って座った。
遥はレモンティー。
俺はコーヒー。
カフェで飲み物を頼む時、いつも俺たちはこの二つ。
程なくして、テーブルの上に湯気が浮かぶカップが並んだ。
ティーカップの中のレモンティーを、遥がひと口含む。
俺も釣られるようにカップを手に取り、ブラックのそれを飲み下す。
カップをソーサーへ戻すと、響くのはカチャッと陶器が触れる音。
思いのほか大きな音が鳴ってしまった。
カップから離した手を膝に置き、一度だけキュッと握る。
それからゆっくりと、俺から口を切った。
「話…聞こうか」
遥は俺と一瞬だけ視線を交わらせた。
緊迫した空気は、駅前で会った時から二人の間に居座り続けている。
遥から切り出すのを待つべきか?
そうも考えたけれど、何度も言葉を言い淀む遥を見続けるのは、思ったよりもずっと堪えた。
このまま何も口にしなければいい。
口にさせないままやり過ごせば…。
…そんな考えが過らなかった訳ではない。
けれども、こんな最後の最後になってまで俺は…
悪あがきするみっともない姿を、遥の前で曝け出すことが出来ずにいる。
目の前の遥が、大きくひとつ肩で息を吐いた。
それからうつ向いたまま…
「私…もう、京治とは付き合えない…」
声にならないほど小さな声で、それを告げた。