第5章 glass heart【赤葦京治】
あれから一ヶ月半。
俺の胸の中は、ずっと晴れないモヤがかかったまま。
遥は何も言わない。
俺からももちろん何も触れない。
電話もLINEもする。
明日の休日だって、会う約束をしている。
あの男からのメッセージは、俺の杞憂だった。
そう、思いたかった。
けれど…
仕事を終え帰宅した夜、
[明日何時に待ち合せようか?]
とLINEをすれば、その返事と共に遥からは、こんな文字が送られてきた。
[会ったら、京治に話したいことがある]
ああ……
来た……。
二人の間にずっと居座っていた違和感は、やっぱり勘違いや思い違いなんかじゃなかった。
ここ数か月、電話もLINEもすぐには反応がなかった。
以前なら、俺からのそれを待っていたかのように遥は応えてくれたのに。
何より会っていても、俺が触れようとするとさりげなくそれを交わすんだ。
こんなの…気づかない方がおかしい…。
その夜は、酒とつまみで食事を終わらせた。
ゆったり湯舟に浸かる気にはなれず、寒い中シャワーだけで済ませる。
早々にベッドへ潜り込み、ため息も寝返りも何度も何度も繰り返した。
疲れているはずなのに、眠気は一向にやってくる気配はなく…
気付けばカーテンの隙間から、長い冬の夜が明ける色が見えた。
二人の家の、中間地点にある駅。
周辺に店も多く、外食する時にはよくここを訪れていた俺たち。
改札の外、落ち着かない気持ちを持て余しながら手と頬で冷たい空気を感じた。
うん…このくらいでちょうどいい。
寒さで冴えた頭でなきゃ、遥の話なんて聞けそうにない。
「お待たせ。ごめんね…遅れて」
落ち着いた、澄んだ声。
15歳の頃から記憶の奥にずっと残っていた声。
顔を上げ、ひとつ息を吐く。
「…ううん。俺も今着いたとこ」
この時間が始まるのが、酷く憂鬱だ。
でも遥はここで止まってはくれないから…
「行こうか」
せめてもの強がり。
俺から遥を促して、駅の構内を出た。